中小企業が悩まされる事業承継、後継者不在の状況をいかにして脱するか

2024年01月05日

今、少子高齢化によって多くの中小企業の経営者は後継者不足に悩まされており、実に国内企業の3分の2にあたる企業が後継者不在の問題を抱えているそうです。後継者不在が倒産や廃業の原因の一つとなっているケースも珍しくないのですが、団塊世代が75歳を迎える2025年以降(2025年問題)はよりこの傾向が顕著になると考えられます。

今回は後継者不足の現状や原因を踏まえ、対応策を解説します。

後継者不在を理由に廃業を検討する中小企業は多い。

帝国データバンクが発表している『全国企業「後継者不在率」動向調査』によると、2023年の後継者不在率は57%にも昇るという衝撃的な結果が出ています。およそ3社のうち2社は後継者が見つかっていないのが現状なのです。

事業が黒字であっても後継者がおらず、廃業を選択する企業も少なくありません。実際に中小企業経営者の2人に1人は自分の代で廃業を予定しているという結果も出ています。

地域別で見る後継者不足の現状

後継者不在率は地域によって大きな違いがあります。全国で不在率がもっとも高いのは島根県で75.1%、もっとも低いのは三重県で29.4%であり、2倍以上の開きがあります。三重県は2年連続で不在率が20%台ということで、かなり健闘しています。

不在率が低い地域では、経営を引き継ぎやすい環境が整っている、経営や商圏が比較的安定している企業が多い、地域金融機関などが支援を積極的に行っているといった要因があるのではないかと帝国データバンクは分析しています。

地域ごとの後継者不在率上位6

上位6県 2022年
島根 75.1%
鳥取 71.5%
秋田 69.9%
北海道 68.1%
沖縄 67.7%
神奈川 66.2%

地域ごとの後継者不在率下位6

下位6県 2022年
佐賀 46.8%
鹿児島 46.4%
和歌山 46.2%
福島 44.7%
茨城 42.7%
三重 29.4%

出典:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221105.pdf

業種別で見る後継者不足の現状

業種別で見てみるとサービス業や医療、建設業などは後継者不在率が高い傾向があり、一方で金融や保険、製造業は不在率が低い傾向があるそうです

金融や製造業は比較的規模が大きい会社が多いのですが、サービス業や医療(クリニック)、建築業は個人あるいは数人で運営されているケースも多く、それが廃業率の違いに影響を与えているのではないかと考えられます。

業種ごとの後継者不在率

上位5業種 2022年
専門サービス 68.1%
医療 68.0%
職別工事業 67.1%
自動車・自転車小売 66.7%
広告・調査・情報サービス 65.7%

出典:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221105.pdf

後継者の不足、不在が高まっている要因とは

そもそもなぜ多くの企業で後継者が不在もしくは不足している状況が発生しているのでしょうか?ここからは後継者不足の要因について考えてみましょう。

少子高齢化の影響

まずいちばんの要因として挙げられるのが、冒頭でも触れた少子高齢化です。帝国データバンクによると2022年度における全国の社長の平均年齢は60.4歳であり、年代別でみると80代以上が24.6%、70代が40.8%、60代が19.6%となっています。一方、休廃業時の経営者の平均年齢は71.4歳です。多くの企業ではすでに経営者がリタイアするタイミングを迎えているということになります。

経営者の高齢化に加え、少子化の進行によって後継者となる子どもの絶対数は減少しています。交代のタイミングを迎えたのにも関わらず、次の世代がいないのが実情なのです

親族内承継の減少

かつては子が親の家業を引き継ぐのが一般的でした。しかし、大学進学率の上昇や情報の一般化、価値観の多様化などによって職業の選択肢が増え、自分の好きな道に進むことを望む若者が増えた傾向があり、親も「自分と同じ苦労をさせたくない」「自分がやりたいことをしてほしい」とあえて家業を継がせないケースが減ってきたのも要因であると考えられます。

目まぐるしい経済の変化による経営・事業の見通しが不安

現代はVUCAの時代とも呼ばれ、将来の予測が困難な状態と言われています。実際にバブル崩壊やリーマンショック、新型コロナショックなど、さまざまな危機が訪れており、経営や先行きに不安を抱えている中小企業の経営者も少なくありません。

不景気に陥れば業績の悪化や事業継続が困難となる恐れもあり、親族だけでなく社内の役職者でも事業を引き継ぎたがらないというケースも多いです。また、先行きが不透明な状態が続いていることから、自分の代で廃業しようと考えられている経営者の方もいらっしゃいます

事業承継の準備がなかなか進まない

中小企業庁から委託され株式会社東京商工リサーチが実施した『企業経営の継続に関するアンケート調査』

後継者を決定するまでの期間

  • 1~3年以内
    42.0%

  • 3年以上
    37.1%

事業を引き継ぐのには時間がかかります。中小企業庁から委託され株式会社東京商工リサーチが実施した『企業経営の継続に関するアンケート調査』では、後継者を決定するまでの期間として「1年~3年以内」と回答した企業が42%、3年以上と回答した企業は37.1%という結果が出ており、後継者を決めるだけでも数年を要します。

また、事業承継の手続きは非常に複雑でやるべきことも多いので、日々の業務が忙しくて準備が進んでいないのも後継者が不足している要因のひとつといえます

特に時間がかかるのが後継者の育成です。後継者が育っていないままいざ事業承継が必要となったときに適任者が見つからず、悩まれている経営者の方も少なくありません。また、後継者側の資金力不足や贈与税、相続税の税負担が大きくなることも事業承継を躊躇させる要因となっています

後継者不在の現状を解決する4つの方法

以上で後継者不足の実態を見てきました。ここからは具体的にどうすればいいのか?後継者不在の現状を解決するための4つの手段について見ていきましょう。

親族内承継

親族内承継とは自分の子どもやきょうだいなどの親族に事業を継承する方法です。かつて事業承継といえば親族内承継が一般的で、現在でもこの形態をとられている会社は多いです。

従業員や顧客、取引先などの関係者から理解を得やすい、後継者教育の時間を確保できる、連携がとりやすいといった点がメリットです。一方で親族の間でトラブルに発展するおそれがある、後継者にふさわしい人物がいるとは限らないといった点がデメリットといえます。

親族外承継

親族外承継とは親族以外の人、具体的には社内の役員や従業員などに事業を承継させる方法です。近年では親族外承継が非常に増えており、55%の企業が親族外継承を選択しています。

後継者も会社の状況や業務に精通しているため他の従業員からの理解を得やすい、親族内に適任者がいない場合でも事業承継が可能であるといった点がメリットです。一方で後継者側に資金力が乏しいケースがある、個人債務保証の引き継ぎが難しいといった点がデメリットといえます。

M&Aによる第三者承継

M&Aとは会社を第三者に譲渡して事業を継承してもらうという方法です。親族や社内に適任者がいない場合はM&Aという選択肢も有効といえます。

ノウハウがある後継者に経営を託すことができる、後継者に負債も引き継ぐことができる、現経営者が会社売却によって利益を獲得できるといった点がメリットです。一方で実際に会社を売却できるとは限らず不確実性が高い、手続きに時間がかかる場合があるといった点がデメリットといえます。

廃業

後継者がいなければ廃業するしかほかありません。また、会社の業績が良くないから、将来の見通しが立たないからという理由で自分の代で廃業を選択される方も少なくないです。

廃業のメリットとしては後継候補者や譲渡先との交渉が不要である、リタイアするタイミングが自由に選べるといった点が挙げられます。一方で廃業後にも借金の返済が必要となりえること、企業価値が清算価値となってしまうことがデメリットです。

事業承継の動向を知る

事業承継にはさまざまな形があることがおわかりいただけたかと思います。ここで最新の動向について見ていきましょう。

2022年度は「同族承継」「内部昇格」「外部招聘」「M&Aほか」という4つの方法のうち、子や親族に事業を継がせる「同族承継」で事業承継をした企業がもっとも多く、その割合は34.0%でした。その次が役員や従業員に事業を任せる「内部昇格」で33.9%、買収や出向を中心にした「M&Aほか」は20.3%、社外の第三者を経営者として迎える「外部招聘」は7.5%でした。

特筆すべきは「脱ファミリー」という動きが進んでいること。今もなお同族承継は多いのですが年々その割合は低くなってきており、内部承継やM&Aを選択する人が増えてきています。特にM&Aが2割を超えたのは調査以来はじめてです。親族にこだわらず、優秀な人・信頼できる人に経営を託すというのは非常に重要です。

後継者不在を解決した事業承継の成功事例

後継者不在の状態でも、視野を拡げれば適任者が見つかる可能性は大いにあります。ここからは後継者不在問題を解決して事業承継を成功させた事例を見ていきましょう。

親族内承継ではなく、会社の成長を考えM&A

A社長は長年建設会社であるB社を経営してきましたが、65歳を過ぎてから後継者が決まっていないことに対して悩みを抱えられていました。娘や従業員に引き継いでもらうという手もありましたが、荷が重いということで躊躇されていたのです。

そこで、会社の将来を見据えてM&Aで後継者を探すことにしました。ほどなくして若くて人間味あふれるC社長と出会ったのです。すでに建設関係の事業を手掛けていて施工管理も問題なくできること、地元を大切に思う心意気があり事業をしっかりと引き継いでくれると確信して、A社長はC社長にB社の経営を委ねたのです

経営者の高齢化に伴い事業承継

施設の常駐警備をメインとした警備会社であるD社を経営されていたE社長も、やはり高齢となり会社売却という決断をとりました。

買い手企業は人材派遣や紹介予定派遣事業などをメインとした総合人材サービスを手掛けるF社。株式譲渡の手法を用いてD社はF社の傘下となりました

なお、E社長は当初M&Aを完了した時点で引退する予定だったそうですが、F社の要請を請けて現在も社長業に従事されているそうです。

後継者が不在で廃業した事例3選

以上のようにM&Aによって後継者に事業承継をした事例もあれば、残念ながら廃業という道を選択せざるを得なかった企業もあります。ここからは後継者不在によって廃業を余儀なくされた事例を見ていきましょう。

テレビアニメ「花咲くいろは」のモデルとなった新右ヱ門 秀峰閣(老舗旅館)

新右ヱ門・秀峰閣は石川県金沢市、湯涌温泉の老舗旅館です。温泉が発見されて以来1,300年もの間温泉宿を営んできて、加賀藩の前田家や詩人の竹久夢二も御用達でした。また、テレビアニメ『花咲くいろは』のモデルとしても有名です。

しかし、人材確保の見通しが立たず後継者が不在であったため、2018年3月で閉館・廃業となってしまいました。

菓子匠 源水(老舗の和菓子屋)

菓子匠 源水は江戸時代の後期、1825年に創業して多くの人々に愛される和菓子を提供し続けてきました。ノーベル賞作家の川端康成も、源水のお菓子をこよなく愛していたそうです。

しかし、経営者が高齢となって体力が衰えて立ち仕事もきつくなって続けるのが困難な状況となり、後継者もおらず2018年3月に廃業してしまいました。

彦根上にお店を構える八景亭(料理旅館)

八景亭は彦根城の中にお店を構える料理旅館。玄宮園を見渡せ、観光客が多く脚を運びました。

経営者が病気に罹患してしまい、跡継ぎを探していましたが、子どもはそれぞれ独立済み。第三者に旅館の味を継承する方法も模索しましたが後継者が見つからず、2017年11月に廃業となりました。

中小企業が後継者を決め、育成するのはハードルが高い。

以上のように、老舗企業や有名企業であっても後継者不在で廃業するケースはあり得ます。後継者の育成には非常に時間がかかり、実務を一つ一つ引き継いでいかなければなりません。さらに、座学では学べない、経験を積んではじめて習得できる事柄も多いため、とても一朝一夕では無理です

中小企業白書では親族内承継、親族外承継の際の引き継ぎ時にクリアしなければならない課題として以下の3点が挙げられています。

  • 自社株式や事業用資産のベストな移転方法の検討
  • 承継者が納税や自社株式、事業用資産を買い取る際の資金力
  • 自社株式や事業用資産の評価額が高く、贈与税・相続税の負担が大きい

これに加えて後継者の資金力不足や贈与税、相続税の負担も大きな課題となり、その対策や準備も容易なことではありません。

親族内承継だけにこだわるのでなく、必要に応じて親族外承継、M&Aも視野に入れて後継者を探してみましょう。

まとめ

今は経営の第一線に立てていても、いつかは身を引くときが来ます。後継者不在問題はすぐには解決できません。後継者探しも含め事業を完全に引き継ぐまでには何年もの時間がかかります。それができなくて廃業せざるを得なかった企業も非常に多いです。

決して他人ごととは思わず、「将来どうするのか?」「誰に事業を引き継がせるのか?」を考えてみてください。

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本コラムの監修者

事業再生コンサルタント
清水 麻衣子

元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。

通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。