2023年11月07日
会社の立て直しは社員も巻き込んで全社的に行わなければなりません。にもかかわらず経営層だけで話し合う、外部の支援者(コンサルや顧問士業など)と経営者だけが話し合って意思疎通や意思決定をし、現場や社員は蚊帳の外というケースがよくあります。これでは良くなるものもなかなか良くなりません。
社員に正しい方向に向かって頑張ってもらうことで、はじめて立て直しのスタートラインに立てます。この記事では「社員」を軸に、組織ひいては会社の立て直しを円滑に進めるためのポイントについて考えてみましょう。
組織の立て直しを図るときによく起こる事例
組織あるいは会社の立て直しは経営者の方にとってはもちろん、社員にとっても大きな人生の岐路です。それゆえにさまざまなことが起こります。特に「変化に対する社員の抵抗」「離職が増える」「現場がついてこず空回り」という3つの事象は大なり小なりどこの会社でもあることです。
まずは立て直しの際にどのような問題が生じ得るのかをしっかりと把握しておきましょう。ここでの対応が再生の成否を大きく分けることになります。
変化に対する社員の抵抗
会社の立て直しには数多くの変化が伴います。社員からすれば「首を切られるかもしれない」「待遇が悪くなるかもしれない」「仕事のやり方が変わるかもしれない」「気が置けない同僚や上司、部下と離れることになるかもしれない」……といったさまざまな不安に苛まれます。
人は変化を本能的に嫌います。変化に対応するためには精神的にも肉体的にも多大なエネルギーが必要であり、また先行きが不透明であるため、上記のようなさまざまな不安が生じます。特に業績が悪化している場合はなおさらです。そのため、社員が組織の立て直しに抵抗するのは当たり前という前提に立ち、抵抗にあった場合は真摯に対応しなければなりません。
離職が増える
会社を立て直す際には社員の離職が相次ぐ傾向があります。上記のように変化に対する不安がある、立て直しの方法に納得ができない、会社に将来性が感じられくなった、仕事へのモチベーションを失ってしまった、経営者に対して不信感を抱いているなど、理由はさまざまです。また、特に敏感な社員は業績が悪化した時点で離職してしまうケースもあります。
社長としては「今まで頑張ってくれていたのになぜ?」といった悲しい気持ち、あるいは「裏切られた」という怒りの気持ちを抱くかもしれません。しかし、社員にも人生があり家族がいますので、離職を無理に阻止することはできません。それよりも離職させない対策をとることのほうが大切です。
現場がついてこず空回り
会社の立て直しに対して社員に納得してもらったらいよいよ実行に移していきます。無駄な経費を省く、売上や利益を改善するために、組織のあり方や編成、業務の内容や進め方の変更など、さまざまな施策を行うことになります。
しかし、「あれも、これも」とあまりにも急激に施策を打ちすぎると現場がついてこれず空回りしてしまうことにもなりかねません。社員がオーバーワークに陥ってしまったりモチベーションが低下してしまったりすると、やはり立て直しの最中でも抵抗に遭ったり離職につながったりといった事態になりかねません。
こうした意味でもしっかりと現場の状況を把握し、適切に立て直しの施策を進めていくことが大切です。
立て直し時に意識すべき社員とのコミュニケーション
会社を立て直す際には以上のような事象が多かれ少なかれ発生するのは覚悟しておかなければなりません。社員の抵抗や離職、あるいは経営者の空回りを防ぐためにはコミュニケーションをとることが重要です。しっかりと社員とコミュニケーションがとれていれば、会社一丸となって危機を乗り越えられる可能性が高まります。逆にコミュニケーションが不足していると、社長と社員との間にどんどん溝ができて取り返しがつかないことにもなりかねません。
ここからは会社を立て直す際に意識すべきコミュニケーションのポイントを4つご紹介します。
社員・現場の抱える課題を正しく把握する
冒頭でも述べたとおり、上層部だけ、あるいは社長と外部の支援者だけで会議をして施策を決めてしまっているケースが非常に多いです。しかし、それでは現場に発生している本当の問題点は見えず、いつまで経っても根本的な解決にはつながりません。
また、社員が蚊帳の外状態になってしまうことで、経営者との溝がどんどん深まってしまいます。その結果、抵抗や離職、空回りといった問題に発展してしまうのです。
まずは社長がしっかりと現場を見て、社員の声に耳を傾けましょう。課題点が明らかになる上、「社長はしっかり自分たちを見てくれている」「この人なら信頼して話ができる」という気持ちが社員に芽生え、信頼関係も構築しやすくなります。
変わらなければいけない理由を共有する
会社の立て直しにはさまざまな変化が伴い、それは多少なりとも社員もわかっています。しかし、受け入れられないのは理由や根拠が薄いからというのが大きな要因です。
前述のとおり、変化にはエネルギーが必要であり、未来のことはわからないため不安も伴います。そのような状態でただ「こうするから」「これをやれ」と言っても、なかなか社員は変わってくれません。
「なぜ変わらなければならないのか?」「なぜその施策をしなければならないのか?」「その施策を行うことでどのような効果があるのか?」をしっかりと伝えましょう。変わらなければならない理由や根拠が明確になれば、社員も動いてくれるようになります。
向かう目標・ビジョンを指し示す
以上のように変わらなければならない理由を社員に示すことは立て直しの第一歩ですが、それだけでは不十分です。同じ目的を共有し、同じ方向を向いて足並みを揃えることで、はじめて組織力が高まります。
立て直しに伴う施策は社員からすれば短期的にデメリットになるものも多いです。しかし、将来的に待遇がアップする、やりがいが感じられる仕事ができるようになるなど、中長期で見たときにその社員がベネフィットを得られると思ってもらえば、定着してくれる可能性が高まります。
しっかりと会社の目標やビジョンを共有し、社員一人ひとりが自社に残ったほうがいい・立て直しに取り組んだほうがいいと思ってもらえるよう説得しましょう。
ベクトルの合わない社員の離職はやむを得ない
社長が現場に出て社員とコミュニケーションをとり、変化すべき理由や目標、ビジョンを示すことで、組織の結束につながります。とはいえ、すべての社員がついてきてくれるわけではありません。なかにはどうしてもベクトルが合わず辞めていく社員も出てくるかもしれません。考え方や理想とする将来像の違いは人それぞれなので、それはそれで致し方がないことです。
いくら優秀な社員がいてもベクトルが合わなければ足並みが揃わず、組織は脆弱なままです。社員が辞めてしまうのは大きな痛手ですが、それでもしっかりとベクトル(会社のビジョンや最終目標)を示し続けましょう。
可能な限り社員満足度(ES)を改善する
会社の立て直しにあたっては経営者の想いに共感してもらうことが大切ですが、それだけではうまくいかないのも実情です。
会社は人の集まり。一人ではなし得ないことができることこそが組織のもつ力です。そのパフォーマンスを最大化するためには社員満足度を向上させて、社員ひとりひとりのモチベーションを高める必要があります。
とはいえ、業績が悪化している状態では原資が十分でないため給料アップも難しいかもしれません。社員満足度を向上させる方法としては働きやすい環境を整備する、重要なポストを任せる、やりがいがある仕事を与える、成長ができる機会を設けるなど、さまざま挙げられます。現状で社員にできることを考え還元していきましょう。
社員満足度を改善するには?
特に上記の中でも最重要視すべきは社員の満足度向上です。給与アップや待遇の改善、福利厚生の充実などはコストがかかりますので、リソース面で余裕があれば行いましょう。ただ、上記のとおり待遇の改善以外にも社員満足度を向上させる方法はいくつもあります。「できることは全部やる」くらいの気概を持つことが大切です。
とはいえ、「やりがいがある仕事を与える」「成長できる機会を設ける」というのはいささかぼんやりとしています。そこで、以下のようなポイントを意識して施策を考えてみましょう。
得意なことを活かせる仕事をアサインする
特に組織再編には人の異動が伴います。その際にはその社員が得意なことを軸にして配置をし、仕事を割り振りましょう。たとえば今までものづくりをしていた人に「業績が悪化しているから営業に出てこい」といっても、十分に力が発揮できないかもしれません。慣れない営業活動をさせられた結果モチベーションが低下して離職してしまう可能性すらあります。
好きこそものの上手なれ。無理に営業をさせるよりも、売れる商品をデザインすることに注力させる、高品質な製品ができるよう管理業務に当たらせる、設計や生産にかかるコストの削減をするための方策を考えさせるといったように、その人の得意としている分野、あるいはこれまでの経験が活かせるような仕事を任せたほうが、結果としてパフォーマンスが向上する可能性が高くなります。
成長を感じられる仕掛けを作る
「自分は成長できているんだ」という実感が得られることで、社員のモチベーション向上につながります。特に業績が悪化している会社は閉塞感が漂っていたり人間関係がギスギスしたりしていて、なかなか社員が成長ややりがいを感じる機会が少ない傾向があります。
たとえばキャリア面談を行い、目標を設定し定期的に進捗状況を確認していくことで、成長の実感につながるのはもちろん、会社の目標やビジョンも浸透しやすくなります。ほめ合う・感謝し合う文化の醸成も非常に効果的です。人には誰しも承認欲求がありますので、誰かにほめられたり感謝されたりすることでモチベーションが向上します。まずは経営者から社員に対して積極的に称賛や感謝の言葉や姿勢を示しましょう。
このように成長を感じられる仕掛けをいくつも作っていくことで、活気がある職場が戻ってくるはずです。
ベクトルの合う社員を採用する
社員の離職に伴い新たに人材を採用する必要が出てくるかもしれません。その際には「ベクトルが合うかどうか」を軸に考えてみましょう。いくらスキルが高い人材、立派な経歴を持っている人材を採用しても、ベクトルが合わないとすぐに辞めてしまいます。
確かにスキルや経験も重要ですが、特に会社の立て直し時期にはビジョンや目標、考え方に共感してくれているかどうかを重視して採用しましょう。ベクトルが合う人材を採用することで、結果として早期に業績の回復につながる可能性も十分にあります。
経営者(経営層)と社員(現場)を繋ぐ
経営層と社員・現場が一体となっていないと、なかなか会社の立て直しにはつながりません。そのためには橋渡し役が必要となります。社長自身や経営幹部がその役割を担えるのが一番ですが、その能力がないということであれば外部から引っ張ってくるしかほかありません。
業績が悪化した際の相談先としては経営コンサルタントや事業再生コンサルタント、あるいは会計士や税理士、社労士といった士業など、さまざまな選択肢があります。しかし、冒頭でも述べたとおり多くの場合は経営者のみとの対話で終わってしまうのが実情です。
しっかりと会社の内部にまで入り込んで、経営者と現場をつないでくれるような役割を果たしてくれるかどうか?という視点で相談先を選んでみましょう。
まとめ
いくら経営者が会社の将来を考え、施策を行おうと頑張っても、現場に共有されていなければ意味がありません。かえって社員のモチベーションが下がったり不信感が募ったりして反発や離職につながる可能性すらあります。そうならないためには、経営側と現場側をつなぐ人材が必須です。
会社を本気で立て直したいのであれば、東京事業再生コンサルティングセンターにご相談ください。私たちはこれまで50社以上の事業再生に携わってきました。ただ経営者と話をするだけでなく、会社の現場にまで入り込んで、社員の方との対話もしながら事業再生を目指します。初年度のコンサルティング費用は無料で、資金面での支援も可能です。
私たちの想いや事業再生までの流れ、実績はこちらのページにも記載しております。業績が悪化して困っている、どうしたらいいかわからないという経営者様は、お気軽にご相談ください。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。