2024年05月02日
親御さんやご親族から事業を継いでほしい、ご友人や知人から経営を交代してほしいと言われたのはいいものの、その会社に多額の借金があったらどうしますか?もしくは借金がある会社を誰かに継がせる場合はどうしますか?
この記事では借金がある会社を継ぐ際の注意点や少しでも借金の負担を軽減して事業を引き継ぐ方法についてご紹介します。将来的に借金がある会社を継ぐ・継がせる予定がある方、あるいは打診されて悩まれている方必見です。
そもそも借金のある会社を継いでいいの?
結論から言うと一般的に借金を抱えた会社を継ぐのはおすすめできません。事業を引き継ぐということは、会社の資産を引き継ぐのと同時に負債も引き継ぐことになるからです。
まだ設備投資のための前向きな融資や返せるあてがある場合であれば良いかもしれません。しかし、利益が出ずに借金をして支払いをしのいでいる、借金を返すために借金をしているというような自転車操業の場合だと非常に危険です。
借金がある会社を引き継いだら返済を続けていかなければなりません。経営を立て直して借金が返せるようになればいいのですが、返済できない場合は自宅や不動産をはじめとした資産を売却し、返済できなければ自己破産ということにもなってしまいます。
必ず借金も引き継がれる
基本的に会社を引き継ぐ場合は土地や建物、設備といった資産だけでなく、借金などの負債も引き継がなければなりません。経営は引き継ぐけど借金は引き継がないという選択は不可能です。借金を引き継ぎたくないのであれば、会社の引き継ぎも諦める必要があります。
これは相続においても同じです。遺産を相続する代わりに借金も相続するか、借金の相続を放棄する代わりに遺産の相続も放棄するか、いずれかを選ぶ必要があります。
連帯保証人としての追加
会社を引き継ぐ場合、会社の負債だけでなく会社の連帯保証人になることも求められることがあります。なお、銀行からの借入については「名義変更」ではなく「追加」となります。
特に若い方が会社を引き継ぐ際には信用がまだ十分構築されていないケースが多いです。それゆえ、すでに現在の経営者が連帯保証人になっている状態で、新しい経営者がさらに連帯保証人に追加されることになります。
継ぐ前に検討しておくべき重要事項
借金がある会社の経営を引き継ぐのはリスクが高いですが、事情があって継がなければならないケースもあるかと思います。ここからは会社を継ぐ前に検討しておくべき事柄について見ていきましょう。
会社の現状を把握する
まずは会社の状況をしっかりと把握しておきましょう。会社の財務状況がどうなっているのか?売上や経費が毎月どれくらいあるのか?借金を返していくだけの利益が上がっているのか?といった点をチェックしておくことが大切です。
たとえば借金があっても売上や利益が十分に上がっているのであれば、会社を継いでもしっかりと返済できる可能性があります。
現経営者との擦り合わせ
現経営者と後継者がしっかりとすり合わせておくことも重要です。会社の状況はもちろん、会社を引き継ぐ方法や流れ、スケジュールも話し合っておきましょう。
また、借金についても「どこに・いくら借りているのか?」「返済ができる見込みはあるのか?」「いつになったら完済できるのか?」を曖昧にせずすり合わせを行っておきましょう。
金融機関との交渉
金融機関としっかりと今後の方向性を話し合い、信用関係を構築しておくことも大切です。特に相続で会社を継ぐ場合、会社の経営権は1人が継いでも、借金は相続人全員が引き継ぐことになる可能性もあります。そうなると相続トラブルにも発展しかねないため、新しい経営者以外の相続人が債務を引き継ぐことがないよう銀行としっかりと交渉しておきましょう。
個人資産の形成
会社の借金は基本的に会社の負債となりますが、中小企業の場合は経営者が連帯保証人になるケースが多いです。そのため、会社の借金が返済できない場合は経営者個人が返済をしなければなりません。
借金がある会社を継ぐ際は、経営状態が悪化した場合に備えて個人資産を形成しておきましょう。万が一会社の返済が難しくなっても、経営者に資産があれば乗り切れる可能性もあります。
継がない場合の状況・進め方の理解
冒頭でも述べたとおり、借金がある会社を継ぐのはリスクがともないます。会社を継いだ場合どうなるのか?継がなかった場合はどうなるのか?と考えておきましょう。
特に相続人が複数いる場合は相続人全員が借金も相続することになってしまいます。会社だけを特定の相続人が相続し、借金は他の相続人も相続するとなると相続争いにもなりかねません。こうしたトラブルを防ぐ意味でも、「継がない」という選択肢も視野に入れておかれることをおすすめします。
法人向け生命保険の活用
個人資産の形成にも通じる話ですが、会社を継いだら生命保険に加入することをおすすめします。受取人を会社にしておけば万が一のときにも保険金で借金の返済を賄うことができ、残された家族や社員の負担軽減につながります。
また、保険を使わなければ割戻金を受けられるので、それも返済や事業に充てることが可能です。
固定費の見直し
会社の支出が多くて借金が増えている場合は経費を見直すことで経営状態を改善できる可能性があります。特に賃料や水道光熱費、保険料、通信費などの固定費は毎月かかり続けるものなので、削減できれば経営状況を大幅に改善できる可能性もあります。
代替わりは経営を見直すチャンスです。賃料は適正な価格か?もう少し安い物件に移転できないか?インターネットや携帯電話のプランはもっと安いものがないか?電気やガス、水を無駄遣いしていないか?……いろんな角度で無駄を見つけてみましょう。
対策計画・事業戦略の確立
経費の見直しだけでなく、経営戦略全体を見直してみましょう。借金を返済するためには利益が出る=儲かる会社に生まれ変わらせるのが一番です。代替わりしたら、経営も今の時代に合ったものに改革しましょう。
たとえば売れる新商品やサービスを考える、販売の形態を変えてみる、ネット集客に力を入れるなど、できることはたくさんあるはずです。ただ今までの流れを踏襲するのではなく、良い部分は受け継いで改善すべきところは改善する。今一度ご自身で事業戦略を考えてみることをおすすめします。
「分社化」という方法
借金の負担を軽減して会社を引き継ぐ方法として分社化という手段が挙げられます。新しい会社を作って収益が上がる事業を新会社に移せば、事業のみを引き継いで負債は従来の会社に残すことができます。
分社化とは
一つの企業として行っていた事業を、事業内容やエリアなどの単位で切り離し、独立した子会社をつくることを指します。
たとえば資産が1億円、負債が1億3,000万円ある場合、新会社に資産と負債をそれぞれ1億円移せば、プラスマイナスゼロです。一方従来の会社には負債3,000万円が残ります。こちらは経営者が個人的に返済を続けていくか、自己破産するかということになります。
事業の選択が可能
分社化のメリットとしては収益性が高い事業のみを新しい経営者が引き継げるという点にあります。法人が負債を抱えたままだと新たに融資を受けるのが難しくなってしまいます。上記のように負債と資産が釣り合っていれば、融資を受けられる可能性もでてきます。
また、たとえ収益性が高い事業があったとしても、赤字を垂れ流している不採算事業が存在すれば会社全体の財務状況が悪くなってしまいます。
分社化を行えば、儲かる事業と赤字事業、そして負債を切り離すことができるのです。
債務超過の回避が可能
以上のように儲かる事業のみを分社化して、不採算事業と借金を抱えた会社を畳めば、後継者の借金返済の負担を軽減することが可能です。ただし、破産する場合は「濫用的会社分割」とみなされ、債権者の申し立てによって分社化が無効になるおそれもあります。
分社化は借金と収益事業を切り離す有効な手段の一つではありますが、必ず専門家に相談した上で判断しましょう。
実際に継ぐことになったら
借金がある会社を引き継ぐ際には、まずは資産や負債がいくらあるのか?を正確に把握しましょう。負債があったとしても資産があれば、十分経営を続けられる可能性はあります。一方で、負債が多くて返せる目処が立たない場合は、継がないという判断も選択肢に入ってくるでしょう。
次に事業承継の戦略について考えてみましょう。どのようなスケジュールで、どのように事業を引き継ぐのか?前述の分社化も含めて検討してみてください。
同時に後継者が事業戦略を考えることが大切です。従来のやり方をそのまま引き継ぐのではなく、変えるべきところは変えましょう。現在の経営者と別の視点で会社を見ることで、経営状況を大幅に改善できるポイントが見つかる可能性もあります。
また、会社を引き継ぐとなったら借金をどのように返していくか?という返済計画を立てるのも重要です。なお、相続によって会社を引き継ぐのであれば、他の相続人に借金の負担がかからないよう配慮する必要があります。
ー重要事項ー
①資産・負債の把握
②継承戦略の立案(事業承継計画・分社化)
③事業戦略の立案
④残された負債への対処
どうすればよいか悩んでいる現経営者・後継候補者様へ
借金がある会社を引き継ぐのは大きなリスクがともないます。しかし、道がないわけではありません。経費を見直し、売上が上がる仕組みを構築できれば、経営状態を改善できて借金を返済できる可能性があります。
東京事業再生コンサルティングセンターは30年以上にわたって事業再生に携わり、多くの赤字中小企業を有料黒字企業へとV字回復に導いてきました。事業の立て直しに専念していただきたいから、初年度は無料でサポートいたします。
これから借金がある会社を受け継ぐ可能性がある方、あるいは後継者に少しでも良い状態で会社をバトンタッチしたい経営者様は、私たちにご相談ください。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。