M&Aで事業再生を行う方法・手順を解説

2023年12月13日

M&Aで事業再生を行う方法・手順を解説

今や大企業すらも突然倒産する時代です。最近ではシェアオフィス事業で一世を風靡したWe Workの破産が大きなニュースとなりました。

経営状態が悪化した際にはいち早く事業の立て直しを図る必要があり、その方法はさまざまです。この記事ではM&Aをはじめとした事業再生の手法についてご紹介します。

1.事業再生について | 事業を再生する4つの方法

事業再生とはその名のとおり会社の事業を立て直すことです。財務状況を改善し、売上や利益が上がるようになれば、事業を再生させることが可能です。事業再生の方法は主に以下の4つに分けられます。それぞれ簡潔に見ていきましょう。

自社努力での事業再生
自社の力だけで財務状態や売上、利益の改善を目指す方法です。経営状態が悪化して間もない傷が浅いタイミングであれば、自社努力だけでも再生できる可能性はあります。

金融支援での事業再生
会社の財務状況が相当悪化していて自社だけでは立て直しが不可能な状態に陥っている場合は、「私的整理」や「法的整理」によって債務を整理して再生を目指す必要があります。

ー私的整理
債務者と話し合って債務を調整しながら事業再生を目指す方法です。金融機関などの債権者の合意を得て債務負担を軽減してもらった上で事業の立て直しを図ります。

ー法的整理
裁判所に介入してもらって債務を整理した上で事業の再生を目指す方法です。民事再生法や会社更生法にもとづき手続きを行い、事業の立て直しを図っていきます。

第三者の協力を得て事業再生
スポンサー企業を募って事業の立て直しを図ります。資金を提供してもらう、M&Aなどの方法でスポンサー企業の傘下に入るといった方法があります。

倒産・廃業による事業再生
上記のような方法で再生が望めない場合は倒産・廃業するしかありません。事業が複数ある場合は採算事業のみを切り離して会社を倒産させるといった方法もあります。

2. M&Aにおける事業再生の手法4選

事業再生の手段として近年注目されており、実際に多くの企業で採用されている手法として「M&A(合併吸収)」というものがあります。事業を他者に譲り渡して経営を委ねることで、事業の立て直しを図る方法です。M&Aには主に以下の4つの手法があります。

企業再生方式

株式譲渡や合併などによってスポンサー企業の子会社となり事業再生を目指す方法です。事業再生の対象となる会社の法人格を存続させた状態でスポンサー企業の資源やノウハウを活用しながら事業の立て直しを行うことができます

事業譲渡方式

事業そのものあるいは事業の一部を会社から切り離してスポンサー企業に譲渡する方法です。会社を残したまま譲渡する事業範囲を自由に選択できるというメリットがあります。会社の経営権も経営者が引き続き保有することが可能で、事業再生にはよく使われる手法です。ただし、事業譲渡では労働継承法が適用されないため、譲渡に伴い従業員との協議や事前通知が必要となり、転籍手続きを個別に行わなければなりません。

会社分割方式

事業そのものあるいは事業の一部を会社から切り離して既存会社もしくは新設会社に移転する方法です。既存会社に移す手法は「吸収分割」、新設会社に移す手法は「新設分割」と言います。会社分割の場合は労働継承法が適用できるため、労働者との協議や事前通知を行うことなくM&Aを実行できるのがメリットです

第二会社方式

事業譲渡や会社分割によってコアとなる事業を別会社(第二会社)に移転し、その後旧会社は特別清算などの手続きを行う方法です。旧会社の法人格は消滅してしまいますが、採算事業のみを残すことができます。第二会社方式についてはこちらの記事でさらに詳しく解説しています。

3. M&Aによる事業再生のメリット・デメリット

M&Aによる事業再生にはメリットとデメリットの両方があります。それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。

M&Aによる事業再生のメリット

M&Aによる事業再生のメリットM&Aによる事業の立て直しには、他の手法と比較して主に以下の4つの大きなメリットがあります。事業再生の必要性を感じられているのであれば、M&Aも選択肢の一つに入れてみましょう。

事業の再生・発展を支援

今、急速な少子高齢化や技術革新、あるいは新型コロナウイルスの感染拡大など社会情勢が目まぐるしく変化しており、それに伴い人々の価値観や市場の状況も刻一刻と変わっています。企業同士の競争も激化しており、これまでのやり方が通用しない時代になりました。

M&Aを実行することで、こうした厳しい状況下でもビジネスを成功させている企業の経営資源や販路を活用することができ、事業の立て直しが図れる可能性が高まります。特に、売上や利益が伸び悩んでいる事業はM&Aによって急成長する可能性もあるのです。

雇用維持

倒産・廃業を選択すると多くの人々に多大な影響を及ぼしかねません。従業員は職を失い露頭に迷うことになるでしょう。取引先に関しても自社が倒産することで事業継続が困難となり、連鎖倒産に陥ってしまう危険性があります。経営者であればこうした事態はなんとしてでも避けなければなりません。

M&Aであれば不動産や設備、技術など、すべての資産をスポンサー企業に引き継ぐことが可能です。従業員の雇用や取引先との関係を維持したまま事業を存続させることができ、影響を最小限に抑えられます。

事業承継の問題を解決

少子高齢化は後継者不足という大きな問題を引き起こしています。現に後継者がいない、あるいは子息などの親族や親族以外の役員・従業員の中に後継者が見つからないといった理由で廃業を選択せざるを得ないというケースも増えてきています。

M&Aなら親族や会社の関係者以外の第三者に経営を委ねて事業を存続させることが可能です。しかも、経営の経験が豊富ですでに成功している経営者が事業を託すことができるので安心感があります。従業員や取引先との関係やコストを考えると廃業を選択できないという経営者の方にもおすすめできる選択肢です。

売却による投資回収スピードを早める

M&Aでは事業やそれに関連する資産を第三者に譲渡することで対価を得られます。たとえば会社に複数事業がある場合、M&Aで一事業を譲渡して得た利益を運転資金に充てることが可能です

不採算事業を切り離して譲渡すれば財務状況の改善につながります。その上、譲渡益を返済や新たな投資に回せば業績が上向く可能性があります。

M&Aによる事業再生のデメリット

M&Aによる事業再生のデメリット以上のようにM&Aによる事業再生にはさまざまなメリットがあります。一方でデメリットも少なからずあるため、十分考慮して決断することが大切です。特に以下の点には注意しましょう。

経営に関する権限の縮小

MM&Aを実行すればスポンサー企業の傘下に入ることになります。すなわちこれは第三者が主導して経営を行っていくということ、相手方の方針に従わなければならないということになり、今の経営者の権限が縮小される、あるいは取り上げられることも大いに考えられます

もちろん、経営者ご自身が完全に経営から身を引きたい、新しい経営者に経営を委ねたいという想いがあれば問題ありません。しかし、他社の傘下に入る覚悟ができていない、あるいはご自身が今後も積極的に経営に関わっていきたいのであれば、再考する必要があります。

M&Aの買い手先の選定

譲渡先の選定も非常に大きなハードルとなります。いくら事業を譲渡したいと思っていても、譲り受けてくれる相手が見つからなければM&Aは成立しません。

大切なのは売り手側が望む条件と買い手側の需要がマッチすることです。M&Aにおいては「これからの収益性」が企業価値を評価する上で重要な材料となります。たとえ今現在は利益が出ていたとしても、今後の収益性が低いと見込まれる事業に関しては、相応の評価がくだされます。事業を譲渡したいと思っていても、なかなかそれが実現できない会社も少なくないのです。

4.M&Aによる事業再生を検討すべきタイミング

M&Aによる事業再生を検討すべきタイミング以上でM&Aによる事業再生の方法についてご紹介しましたが、そもそも事業再生が必要になるのはどういったタイミングなのでしょうか?手遅れにならないためにも、適切な時期に適切に動けるようにしましょう。

収益の急激な減少

収益が急速に減少し、経済的に持続が危ぶまれるような状態になったら黄色信号です。業績が悪化する原因は市場の変化や競争の激化、不景気などさまざまあり、必ずしも経営者のせいとは限りません。しかし、業績不振が続くと既存の返済計画ではキャッシュフローが回らなくなってしまう可能性も大きいため、早めに事業再生を検討しましょう

M&Aを通じて新しいリソースや販路が増えれば、まだ再生できる道は残っています。

負債額の増加

借金や負債が増加して経営が圧迫されている状況も要注意です。特に返済が困難と感じているのであれば早いうちに動き出しましょう。遅かれ早かれ返済が不能な状態になってしまったり多重債務に陥ってしまったりするおそれもあります

M&Aで事業を売却し新たに資金を得る、負債を再構築することで、事業再生の可能性が拓けます。

法的な規制上の問題

法的な問題が発生していて事業の継続が困難な場合もM&A による事業再生が選択されるケースがあります。

法人の所有者が変わることで法的な問題がクリアになる、規制対応の強化が実現できて経営の継続や安定化につながる可能性があります

5. M&Aによる事業再生の簡単な手順

M&Aによる事業再生の簡単な手順M&A による事業再生を実行する際には、主に以下のような5つのステップがあります。

①M&Aに関する初期相談
まずはM&A 仲介会社やコンサルタントなどにM&A に関する相談をします。どのような流れで進めていくのか?手数料はいくらになるのか?疑問点や不安点はすべて確認しておきましょう

②M&A先の選定・面談
仲介会社やコンサルタントと契約を締結したら譲渡先の選定を行い、候補者との面談を実施します。安心して事業の将来を託せる相手なのか?しっかりと見極めましょう

③合意締結
面談で条件のすり合わせができて契約内容がまとまったら合意締結を行います。合意締結とはM&A の条件に双方が暫定的に合意することで、後々正式な契約を締結します

④デューデリジェンス
合意締結後に相手先がデューデリジェンス、つまり買収対象事業の価値やリスクの評価を行います。この結果をもとに相手方が最終契約を締結するかどうかを判断するので非常に重要なフェーズです

⑤最終契約の締結
デューデリジェンスが完了して相手方が買収の意思を固めたら最終契約の締結です。だいたいここまで3か月~1年くらいの期間を要します

6.M&Aを考える前に!事業を再生させるために見直すべき事

6.M&Aを考える前に!事業を再生させるために見直すべき事M&A は事業を再生する最終手段の一つです。そもそも経営者の考えを改め直さない限り、悪化した事業の立て直しはなかなかうまくいきません。ここからはM&A を考える前に見直すべきポイントをご紹介します。

経営理念を示す

まずは改めて経営理念を見直してみましょう。自力で再生するにせよ、M&A で再生するにせよ、ここがしっかりしていないとなかなか立て直すことはできません。

自社のミッション(企業が果たすべき役割。世の中にどう貢献していくか?)、ビジョン(企業が目指す姿。たとえば「3年後に売上を2倍にする」といった具体的な数値)、バリュー(企業の価値。「お客様第一主義」のように社員の行動規範となるもの)の3点を改めてしっかりと示しましょう。

これらが定まっていれば、従業員が同じベクトルに向かいやすくなります。また、対外的に示せば顧客からの信頼度も高まるはずです。

自社、競合、市場の分析を行う

次に自社の強みと弱み、市場における立ち位置を客観的に分析しましょう。おすすめなのはSWOT分析を実施することです。

市場(消費者)が何を求めているか?自社が狙う市場にアプローチするためにはどのような手段があるのか?をしっかりと明らかにしましょう。

こうした分析を行うことで、自社が本来市場に提供すべき価値が明確になり、それに合わせて商品・サービスを改良すれば売上や利益の向上につながります

経費の再確認

無駄な支出は業績が悪化する典型的な要因です。外注費や人件費、広告費、原材料費などの経費を徹底的に見直しましょう。節約しているつもりでも、案外無駄が発生しているケースは少なくありません。

経営者目線だけでなく現場にも目を向けて、全社的に不要なコストを削減するというマインドをもつこと、そして実行していくことが重要です。経費の無駄が削減できれば、それだけでもキャッシュフローの改善につながります。

選択と集中

業績が悪化している企業の内情を見ていくと、不採算事業が足を引っ張っているケースもよくあります。成長や売上が見込めるコア事業は残し、採算が採れない事業は廃止もしくは売却するという選択と集中を行うことで、利益率が改善できます。

「赤字を垂れ流しているような事業は誰も引き受けてくれない」と思われるかもしれません。しかし、ほかの会社からすれば黒字化が見込める、既存事業とのシナジー効果が期待できる有益な事業である可能性も十分にあります。そういった意味でも、今回の主題となっているM&A による事業再生は検討する価値が大いにあるのです

7.経営再建、事業再生の成功事例2選

ここからは「果たして事業再生は本当に可能なのか?」と思われている経営者の方のために、事例を2つご紹介します。

①消費者ニーズを調査、店舗や従業員への意識改革を徹底し経営回復:日本マクドナルド

まず1つ目は誰しもが知るマクドナルドです。日本マクドナルドは2014年頃に発覚した食品管理の問題を発端として2期連続の赤字を計上しました。

同社は食品の品質管理の徹底と顧客からの信頼回復を重要な課題として位置づけ。特設Webサイト「タウンミーティングwithママ」による消費者リサーチを行い、顧客の声を徹底的に集めてサービスを改善するとともに、スマホアプリ「KODO」を利用し店舗、従業員の意識改革に努めたのです。

自社の課題に真摯に向き合い抜本的な改善策をとった結果、2016年には黒字へとV字回復を果たしました

②売却・子会社化で特定の分野に経営資源を集中しV字回復:日立製作所

日立製作所は言わずとしれた日本を代表する電機メーカーですが、2009年のリーマンショックの煽りを受けて7,000億以上の赤字を計上。鉄道分野をはじめとした社会インフラとITに資源を集中させるため、この2分野以外の上場子会社を売却するか、完全子会社化して組織を再編。その結果業績は徐々に回復し、2021年3月期には過去最高の5,016億円の純利益を計上して、V字回復に成功しました

M&Aはあくまで選択肢の一つに過ぎません。事業再生で本当に必要なのは、消費者(顧客)のニーズを知り、自社が抱える課題を最優先しながら赤字から黒字へのV字回復を果たすことなのです

8.事業再生を行う際の相談は誰にしたらいい?

事業再生を検討している、なんとしてでも業績を回復させたいとお考えの経営者様は、東京事業再生コンサルティングセンターにご相談ください。弊社には33年にわたって50社以上の中小企業様を事業再生に導いてきた実績がございます

私たちがなによりも大切にしているのは小手先の改善ではなく、優良黒字企業に転換して経営を安定させること。しっかりと売上が立って、常に黒字が続くような抜本的な改善ができなければ、また業績はすぐに悪化してしまいます。

初回1年間はコンサルティング料金をいただきません。覚悟をもって、本気で事業再生を目指しますので、本気の経営者様はぜひ一度ご連絡ください。

当社について知る

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本コラムの監修者

事業再生コンサルタント
清水 麻衣子

元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。

通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。