事業再生の手法を網羅解説!企業再生との違いも把握【図解入り完全版】

2023年07月12日

事業再生の手法を網羅解説!企業再生との違いも把握【図解入り完全版】

大きく分けて2つの再生手法がある

業績が悪化した会社を立て直す事業再生には大きく分けて「法的再生」と「私的再生」という2種類の手法があります。法的再生とは裁判所が介在し、民事再生法や会社更生法、会社法などの法律にもとづいて事業再生を実施する方法です。私的再生とは裁判所が介在せず、債権者や利害関係者と話し合いをしながら事業再生を進めます。

いずれも借り入れが返せる見込みがない、債務超過に陥っているなど、事業の継続が困難な状況に陥ってしまった場合に行います。債務を整理して再生計画を立て、それを実行していくことで、会社の立て直しを図ることができます。

【大別】2つの事業再生手法

法的再生

法的再生は裁判所の管理下で法律にもとづいて事業再生を図るため、手続きの透明性や公平性が高く債権者からの理解が得られやすいという点がメリットです。また、事業再生計画を実行するかどうかが債権者の多数決によって決まるため、事業再生に反対している債権者がいたとしても再生を進められ、債権者に対して法的拘束力が発生するといった利点もあります。

一方で裁判所に支払う予納金が必要になり費用がかかること、法的再生を行うことが公になってしまうため企業イメージが低下するといったデメリットもあることを念頭に置いておきましょう。

法的再生は債務を整理して会社の再建を目指す「再建型」、会社を畳んで債務を整理する「清算型」、第三者(スポンサー企業など)に事業を譲渡する「再生型M&A」という3種類があり、さらに各々の分類の中にさまざまな手法があります。

【再建型】民事再生

民事再生法にもとづき裁判所の管理下のもと、債務を整理しながら事業再生を図る手続きです。経営者が経営権を持ちながら、債権者の同意を得つつ再建計画を実行していきます。債務を整理する、スポンサーの資金援助を受けるなどの方法を用いて事業の再建を目指します。個人事業主や中小企業がよく選択する方法です。

【再建型】会社更生

会社更生法にもとづき実施する事業再生手続きです。裁判所が専任した更生管財人が会社の経営や財務管理を引き継ぎ、事業の再建を実行します。更生管財人は経営者自身が就任することもありますが、多くの場合弁護士が選出され、経営者は経営から退くケースが多いです。大企業や中堅企業など、比較的規模が大きい企業で採用される手法です。

【再建型】特定調停

簡易裁判所が会社と債権者の間に入って、両者が納得できる債務の弁済を話し合います。両者が話し合って債務を整理するという点では、後述する私的再生と似ていますが、裁判所が介在するため決定には法的拘束力が伴う点が大きく異なります。上記の民事再生や会社更生と比較すると費用を抑えることが可能です。

【清算型】破産

裁判所に破産を申し立てて、破産法にもとづいて残っている財産を債権者に分配する手続きです。清算を行って債務が消滅する代わりに、会社は法人格を失なってしまいます。一般的には破産=倒産というイメージがありますが、事業再生においては事業の譲渡も含まれます。

【清算型】特別清算

会社法にもとづき債務超過に陥っている株式会社を清算する際に行われる手続きです。上記の破産よりもスピーディーに会社の清算が行なえ、悪いイメージが少ないというメリットもあります。なお、株式会社債務超過に陥っていない場合は、「通常清算」によって清算を実行します。

【再生型M&A】企業再生方式

事業再生の対象となる会社の法人格は維持したまま、株式譲渡や合併などでスポンサー企業の子会社となって事業の再建を目指す方法です。優良企業や大手企業の傘下に入って再建を目指しつつ、会社を存続させることができる点がメリットです。ある程度規模が大きい企業でよく行われます。

【再生型M&A】事業譲渡方式

会社そのものをスポンサー企業に移して事業の再生を目指す方法です。会社はスポンサー企業の一事業部となり、法人格を失い、経営権もスポンサー企業に移ります。中小企業や零細企業においてもよく用いられる手法であり、上記の再建型、清算型手続きを行う際に、事業譲渡方式によってスポンサー企業に事業を譲渡することも可能です。

【再生型M&A】会社分割方式

会社の一部もしくは全部の事業を分割して、スポンサー企業が新設する会社に採算がとれる事業を譲渡する方法です。たとえばA社がスポンサー企業であるB社に会社分割方式でCという事業を譲渡する場合、B社はD社というまったく新しい会社を設立し、C事業はD社が運営していくこととなります。この場合、A社、つまり再生対象の法人格は残りますが、債務超過状態に陥っているため結果として清算するケースが多いです。

【再生型M&A】第二会社方式

こちらも採算がとれる事業のみを別の会社に移す手法です。上記の会社分割方式と異なる点は再生対象企業内の人材が新しい会社を設立し、そこに事業を譲渡する点です。再生対象であるA社で働いている役員や従業員がB社を設立し、A社は採算がとれるC事業をB社に移し、その後A社は清算します。スポンサー企業が見つからない場合でも実行できるため、中小企業や零細企業でも選択しやすい手法です。

私的再生

私的再生は法律にもとづかず、自力で事業再生を目指す方法です。裁判所は介在せず、債権者や利害関係者と話し合いをしながら合意を得て事業再生を進めていきます。なお、私的再生であっても弁護士などの専門家の力を借り、協議を仲介してもらうことが可能です。

法的再生と比較して手続きが表沙汰にならず企業の信用が保てるというメリットがあるため、事業の将来性自体は十分にあるものの負債によって経営が悪化している企業が選択するケースが多いです。一方で法的効力が生じないため、債権者全員と協議をして合意を得られない限り再生が実行できないのがデメリットとなります。

私的再生には主に「私的整理ガイドライン」「中小企業再生支援協議会」「事業再生ADR」という3つの手法があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

私的整理ガイドライン

『私的整理ガイドライン』にもとづいて事業再生を目指す方法です。このガイドラインは経団連(経済団体連合会)や全国銀行協会などの委員から構成される「私的整理ガイドライン研究会」が公表しているもので、債務者と債権者が協議を行う際、あるいは合意を形成する際にとるべき手続きやポイントが規定されており、これに従って双方が話し合いを行います。ガイドラインには法的拘束力はありませんが、一般的な私的再生はこれにもとづいて行われることが多いです。

中小企業再生支援協議会

中小企業再生支援協議会が規定しているスキームを用いて事業再生を目指します。中小企業再生支援協議会はその名の通り中小企業の再生を支援する目的で設立された組織で、各都道府県に設置されており、第三者機関として中小企業や零細企業の事業再生をサポートしてくれます。

事業再生ADR

ADR(裁判外紛争解決手続き)事業者の力を借りて事業再生を行う方法です。ADR事業者とは公正・中立な立場で法的なトラブルの解決を目的として活動する民間の第三者機関で、弁護士などの専門家が認定されています。裁判所を介さないため、法的再生のように債務者や債権者に対する法的効力は発生しませんが、たとえば債権者には債権放棄に関する損失計上が認められる、債務者には債務免除によって発生する免除益課税に対して税制上の配慮がなされるなど、一定の法的な効果を得ることが可能です。

事業再生手法について

Next Stage以上のように、事業再生にはさまざまな手法があり、会社の規模や財務状況、各事業の採算性、債務者との関係性など、さまざまな事柄を考慮して選ぶことが大切です。

たとえば私的整理の場合は比較的費用もかからず、スムーズに解決が図れる可能性があり、しかも手続きが公開されないため企業イメージを損なわずに済む可能性も高いです。しかし、債権者全員からの合意を得る場合は債務履行よりも事業を継続させるほうが得策であるという根拠があることが前提となります。債務者からの合意が得られない場合は法的再生を選択したほうが良い場合もあります。

また、事業に採算性があるのであればM&Aで事業譲渡を行う、民事再生や会社更生によって債務を整理して再建を目指すといった道もありますが、事業に採算性がない、あるいは債務を返済できる見込みがなければ清算ということになります。

民事再生にするか法的再生を選択するか?どの手法を採用すべきか?これらの判断が非常に難しいため、事業再生を目指す場合はまず専門家に相談されることをおすすめします

事業再生に条件はあるか?

再生が現実的なのか?非現実的なのか?という状況判断は必要になりますが、「こうなったら事業再生を検討する」「この場合では事業再生をすべき」といった条件自体はありません。適切な判断ができれば債務が整理でき、組織や事業が最適化され、再建に向けて歩みだすことができます。一方で、事業再生を行うのは容易ではありません。債権者や株主、取締役、従業員、取引先など、利害関係者からの理解を得ることが重要です。

条件で考えるのではなく、「事業を存続させる意味があるのか?」「コストや時間をかけてでも事業を再生すべきか?」というように、事業の価値を考えて判断しましょう。

企業再生と事業再生の定義

事業再生と似たような言葉として「企業再生」というものがあります。一般的に事業再生とは業績が悪化している事業を再生させること、企業再生は会社全体を立て直すと解釈されています

ただし、会社を立て直すためには採算事業を残し、不採算事業をテコ入れすることが必須です。事業再生が必要になるレベルで業績が悪化しているのであれば、会社全体の財務状況も相当悪化しているということになります。そのため事業再生も企業再生も、目指すゴールはほぼ同じです

事業再生のタイミング

債務超過に陥り借金が返済できる見込みがなくなってしまった、どう頑張っても事業を黒字に転換できないという状況に陥ってはじめて事業再生を行っても「時すでに遅し」で、再建できる可能性は限りなく低くなってしまいます。

事業再生を行うのであれば、できるだけ早めに行動に移しましょう。早期に事業再生を行えば行うほど、事業あるいは会社を立て直せる可能性も高くなります。もちろん、前述のとおり事業再生を行うかどうかを判定する、明確な条件はありません。一般的には金融機関へ借入金の返済の見込みが立たなくなったとき、メインバンクからの融資を断られたとき、利益よりも返済額が上回ったとき、2期連続で赤字になったときなどが挙げられます。こうした状況に陥った場合、相当債務が膨らんでいるか事業の採算が合っていないと考えられるため、早めに手を打つことが大切です。

事業再生の手順

事業再生までの流れは手法によって異なりますが、主に「会社や事業の状況・実態調査」「事業再生の方針検討」「デューデリジェンス(企業の価値やリスクを調査すること)」「事業再生計画の策定」「資金調達」「事業再生手続き」という流れを経て事業再生を実行していくのが一般的です。これらすべてのステップを着実に踏んでいくことで、はじめて事業の立て直しが実現できます。

各手順の詳細については「事業再生の手順とは?種類と6つの流れ・進め方について解説」についてまとめました。特に事業再生を具体的に検討されている方は、こちらの記事もぜひお読みください。

事業再生や資金に関するお悩みをご相談ください!

書類事業再生には法的再生、私的再生ともにさまざまな手法があり、適切なタイミングで・適切な方法と選択することが非常に重要です。ただし、一般の方がそれを判断するのは容易ではありません。事業再生を目指す際には一度専門家に相談してみましょう

東京事業再生コンサルティングセンターでは年商5,000万円以上の中小企業の事業再生を得意としており、これまで数多くの企業様の再建を成功に導いてきた実績がございます。元銀行員の経歴があるスタッフが在籍しているため、ノウハウや人脈を活用して資金調達をサポート。創業から現在まで黒字を貫いてきた経営者による再建のアドバイスも可能です

事業再生のプロが初回無料で相談を受け付けております。お問い合わせはこちらのページからご連絡ください。私たちは経営者の味方です。一人で悩まず、まずは相談してみませんか?

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本コラムの監修者

事業再生コンサルタント
清水 麻衣子

元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。

通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。