2020年04月07日
国税庁は2019年、法人の66.6%が赤字経営であることを発表しました。この割合は年々減少傾向にありますが、未だに半数以上の企業が赤字で苦しんでいることが改めて浮き彫りとなりました。
特に赤字企業にとって負担が大きいのが税金。お金がないのにも関わらず支払わなければいけない税金もあれば、赤字の状態では支払う必要がない税金もあります。
具体的にどんなものがあるのか?それぞれ見ていきましょう。また、赤字になったときに少しでも負担を軽減するための節税テクニックについてもお伝えします。
法人に課される税金
そもそも法人に課される税金にはどのようなものがあるのでしょうか?以下の表にまとめてみました。
国税/地方税 | 種類 | 内訳 |
---|---|---|
国税+地方税 | 消費税 | 消費者から預かった消費税ー仕入れで支払った消費税 |
地方税 | 法人住民税 | 均等割+法人税割 |
法人事業税 | 所得割*1 | |
所得割+資本割+付加価値割*2 | ||
国税 | 法人税 | 所得割 |
青字の場合納税義務なし 赤字の場合納税義務あり
*1 資本金1億円以下の法人
*2 資本金1億円越の法人
法人には大きく分けて「消費税」「法人住民税」「法人事業税」「法人税」という4つの税金が課せられます。消費税は赤字であっても必ず支払わなければいけません。一方で法人税は赤字が出た際には支払う必要はありません。
ややこしいのは法人住民税や法人事業税です。一種類の税金でも、支払わなければいけいない部分と、支払わなくても良い部分が存在します。
納税は国民の義務ですが、なぜ支払うべき税金と支払わなくても良い税金があるのか?それぞれの税金がどのような性質のものなのか?詳しく見ていきましょう。
赤字でも課される税金
先ほどの表のとおり、「消費税」「法人住民税(均等割)」「法人事業税(一部の法人)」は赤字でも支払わなければいけません。それぞれの特徴や支払わなければいけない理由を見ていきましょう。
消費税
消費税は消費に対して課される税金で、付加価値税とも言われます。私たちにとってもっとも馴染みがある税金と言っても過言ではありません。商品やサービスを購入する際には、代金の10%(食料品や新聞は8%)の消費税を納めなければいけないのはご存知のとおりです。
しかし、消費税の課税対象者は商品やサービスを提供した法人となります。消費者はあくまで法人が支払わなければいけない消費税を負担しているのに過ぎません。
消費税は所得ではなく売上に課せられる税金であるため、消費者から預かった消費税から仕入れで支払った消費税を引いた額を納税する必要があります。いくら赤字であっても売上が発生している以上は支払わなければいけません。
ただし、課税売上高が1,000万円以下の事業者、事業開始から2年間以内の法人・個人事業主は消費税の納税が免除されています。また、消費者から預かる消費税よりも仕入れなどで支払った消費税のほうが多ければ納税する必要はありません。
法人住民税(均等割)
法人住民税の「均等割」の部分に関しても黒字・赤字に関わらず支払わなければいけません。そもそも、法人住民税には「均等割」と「法人税割」という2つの要素が含まれています。
均等割は法人の資本金や従業員数に応じて税額が決められ、法人税割は法人税の額に応じて税額が決まります。そのため、赤字であろうが均等割の分は納税しなければいけません。
例えば、東京都の場合は従業員数が50人以下、かつ資本金が1000万円以下の法人の均等割は7万円ほどとなり、赤字であってもこれくらいの法人住民税が課せられるのです。
法人事業税(一部の法人)
資本金が1億円以上ある法人には「外形標準課税」が適用され、利益が出なくても「資本割」と「付加価値割」という2種類の税金を収めなければいけません。
資本割
資本金、資本準備金の額の0.525%を支払う必要があります。ただし、無償増資や無償減資などで欠損補填を加減した金額が、資本金・資本準備金の合計額を上回る場合には、その額が課税対象となります。
付加価値割
法人の「単年度損益(繰越欠損金控除前の法人事業税の所得金額)」「収益分配額(報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料)」の合計に税率1.26%を乗じて税額が決まります。
赤字では課されない税金
続いて赤字が出たときには納めなくても良い税金を見ていきましょう。以下の3つが該当します。
法人税
法人税は法人が出した利益に対して課せられる税金です。そのため、利益が発生していない赤字の状態では法人税が課されることはありません。ただし、会計上赤字になっても法人税が課せられるケースもあります。
たとえば減価償却費を計上して会計上では赤字になっていたとしても、税務上では損金に含むことができる減価償却費の上限が決められていますので、税務上黒字になれば法人税が課されるということになります。
法人住民税(法人税割)
前述のとおり、法人住民税は「均等割」と「法人税割」の2種類によって構成されています。均等割は法人の資本金や従業員数に応じて課せられるので、赤字でも納めなければいけません。
法人税割とは法人税に一定の税率をかけて税額が決定されます。前項のとおり、赤字であれば法人税は0です。したがって、法人税の額に応じて算出される法人税割も納める必要がなくなるというわけです。
法人事業税(資本金1億円以下の法人)
資本金が1億円以上の法人は資本割と付加価値割を採用した外形標準課税となるため、赤字であっても納める必要があります。一方、資本金1億円以下の法人は所得に応じて税額が決まる「所得割」となっています。法人税と同様、利益が出ていない赤字の状態であるのなら、所得割のベースとなる所得がないということになりますので、税金を納める必要はありません。
赤字の節税対策
赤字経営となってしまった場合、法人税、法人住民税の法人税割の部分、法人事業税(ただし資本金1億円以下の法人のみ)は課せられないことになります、この考え方を応用して、以下の2つの方法で節税をすることも可能です。
欠損金繰戻し
欠損金とは事業年度の所得金額の計算上損金の額が、利益を上回る際に生じる「マイナス分」の金額のことを指します。たとえば売上が2,000万円あり、経費が3,000万円かかった場合は、欠損金は1,000万円ということになります。
たとえば、前年度は黒字だったのが一転して今年度は赤字になってしまったという事態に陥ったとしましょう。その場合、一定の条件を満たすことで前年度に支払った法人税の還付を受けられることがあります。これを「欠損金の繰り戻し」と言います。
たとえば前期は500万円の利益が出て法人税を75万円納めたとします。当期は400万円の欠損金が発生した場合、前期に赤字が生じたことにして法人税の還付を受けることができるのです。
還付金の額は「前期法人税額×(当期欠損金額÷前期所得金額)」という計算式で算出できるので、「75万円×400万円÷500万円=60万円」。つまり60万円を取り戻すことが可能です。
ただし、欠損金繰戻しを受けるためには「前期及び当期について連続して青色申告書である確定申告書を提出していること」「当期の青色申告書である確定申告書を、その提出期限までに提出していること」「2の確定申告書と同時に『欠損金の繰戻しによる還付請求書』を提出していること」という3つの条件をすべて満たしていなければいけません。
いずれかひとつでも不十分だと、たとえ赤字に転じたとしても還付を受けられないのでご注意ください。
欠損金繰越し
欠損金は次期以降に繰越しをすることも可能です。たとえば1年目に欠損金が100万円という赤字が発生した場合は、所得も0円であるため法人税は課せられません。
欠損金繰越処理を行うことで、1年目は欠損金が出ていないことにできます。つまりマイナス分がなくて利益も0円という状態になり、法人税はかかりません。結果としてはいずれも1年目に法人税を支払わなくてもよいことになりますが、翌年に大きな違いが生じるのです。
2年目に200万円の利益が出たとしましょう。1年目の欠損金を2年目に繰り越すことで、課税所得は100万円(利益200万円-繰越欠損金100万円)に圧縮されます。仮に欠損金繰越の処理を行わなければ、欠損金は2年目にはリセットされてしまうので、所得は200万円ということになります。
法人税率が25%とすると、欠損金繰越を行わなかった場合は法人税が50万円、繰越した場合は25万円となり、倍の違いが生じます。つまり、欠損金が発生した場合は翌年に繰越したほうが得なのです。
欠損金繰越しにも要件があり、「欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出している法人」「その後の各事業年度も連続して確定申告書(青色申告書でなくとも良い)を提出している法人」「帳簿書類等を保存している法人」をすべて満たす必要があります。
欠損金を繰越さない場合 | 欠損金を繰越す場合 | |||
---|---|---|---|---|
1年目 | 2年目 | 1年目 | 2年目 | |
税引前当期純利益 | ▲100 | 200 | ▲100 | 200 |
欠損金 | 0 | 0 | 0 | ▲100 |
所得 | ▲100 | 200 | ▲100 | 100 |
法人税 | 0 | 50 | 0 | 25 |
※税率は25%としています
赤字経営に苦悩されている経営者様へ
税金には赤字でも納めなければいけないものと、納めなくても良いものがあります。また、資本金や従業員数によって納税義務が発生するか発生しないかが決まるものもあります。まずはご自身の会社が今期どんな税金をいくら払わなければいけないのか?しっかり把握しておきましょう。
また、赤字が発生した際には欠損金を繰戻したり繰越したりすることで節税することも可能です。
ただし、残念ながら慢性的な赤字に陥っている場合、税金対策を行うだけでは焼け石に水。黒字転換することは困難であり、経営方針やキャッシュフローなどを抜本的に見直す必要があるでしょう。
このサイトでは、黒字転換する具体的な方法についてSTEP形式でわかりやすく説明している記事もありますので、参考にしてみてください。
赤字企業再生支援センターは単に資金出資をするだけのファンドではありません。赤字経営に苦悩されている経営者様に対して経営に関するアドバイスやサポートなどもさせていただき、二人三脚で事業再生を目指していきます。
「赤字経営で困っていて、打開策が見当たらない」そうしたお悩みは一人で抱え込まずに、ぜひ赤字企業再生支援センターにご相談ください。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。