2019年08月28日
あるベンチャー企業は創業して1年以内に倒産の危機を迎えました。銀行に融資を断られ続け、最後に社長がたどり着いたある秘策が9回裏満塁ホームランとなり、みごとに事業再生を果たしたのです。
今回は、その事業再生に至るまでに行った「手形」による資金繰りについて解説していきます。
融資を断られてもめげないベンチャー企業の逆転劇!その資金繰りの対策とは
【基本データ】
業態:製造業
社員数:5名
財務状況:創業後赤字を計上し続けている
パソコン周辺機器の製造を行っているA社は創業して1年目のベンチャー企業。予想以上に設備投資にお金がかかり、資金繰りが困難に。融資でしのいでいたものの、まもなく銀行から融資が受けられない状況となってしまった。社員5人の給料の支払いや、設備のリース代金など、支払いは待ったなし。取引先とは手形を使った取引を行っていたため、売上金が入るのが遅く、事業資金不足に。倒産寸前の状況にまで追い込まれた。
社長のBさんは藁にもすがる思いで「資金繰り」についてネットで調べたところ、「手形」による資金調達の方法を知り、手形割引で資金調達をすることに。なんとか当面の運転資金を確保し、倒産を回避。今では売上も伸びてきていて、企業が軌道に乗り始めたそうだ。
そもそも手形とは?
先ほどのA社の事例で事業再生の肝になったのが「手形」ですが、そもそも手形とはどういうものかご存知ですか?まずは手形の基本的な知識について解説します。
手形って何?
通常の商取引(掛取引)では商品やサービスの提供を受けた場合は提供元の会社から請求書が発行され、指定期日までに商品やサービスの代金を指定された口座に振り込みます。
しかし、代金を振り込む代わりに有価証券を発行して「期日に現金を支払いますよ」と約束した証券です。その有価証券が手形というわけです。
約束手形
約束手形とは、手形の振出人(手形を発行して代金を支払う人)が受取人(代金の支払いを受ける人)に対して、特定の期日に決められた金額を支払うことを約束する証券のことです。
受取人が取引銀行に手形を呈示(振出人に見せ、手形と引き換えに現金支払いを請求すること)し、銀行を通じて現金が支払われます。
為替手形
A社は顧客であるB社から受け取ったお金をC社に支払うというような、3者が取引に関わる場合などには為替手形を使います。
存在するのは受取人と振出人と引受人。振出人は受取人に対して商品やサービスの提供の対価として手形を振り出し、支払いは引受人が行います。通常であれば引受人は振出人に対して買掛金を支払う必要がありますが、為替手形を振出せば、引受人が受取人に直接代金を支払うことが可能です。
本来であれば、引受人から振出人にお金を支払い、さらに振出人が受取人にお金を支払うという取引となるのですが、為替手形を使うことで、引受人と受取人が直接お金をやり取りすることができます。
ただ、実際は為替手形が使われることはあまりありません。
押さえておくべき3つの手形の運用法
それでは手形を資金繰りにどのように活用できるのでしょうか?そのポイントを3つに分けて見てみましょう。
手形交換による支払いを伸ばす
手形を振出すと支払い期日を遅らせることができます。「下請代金支払遅延等防止法」という法律で下請代金は納品日の60日以内に支払わなければいけないと定められていますが、手形で取引を行えばこの法律が適用されないためです。
たとえば、ある商品を納入してその代金が入ってくるのが3ヶ月後で、材料費の支払い期日が2ヶ月後になるとしましょう。現金が会社にあれば良いのですが、なければ材料費の支払いによって資金繰りがショートしてしまう危険性があります。
そこで、仕入先に手形を振り出せば、支払いを代金入金後に遅らせることができるというわけです。
最悪、裏書譲渡で支払いを延ばす
他の会社から振り出された手形を現金の代わりに使うこともできます。裏面に必要事項を記入することで、第三者に手形を譲渡することができ、それが支払いの代わりとなるわけです。
約束手形は持っているけど、手元に現金がないといったケースで行われます。ただし、裏書譲渡は自分自身だけでなく振出人の信用度も成否を左右します。審査に時間がかかったり、断られたりするケースも少なくありません。
緊急時はウルトラCの手段!手形割引による即現金化
「どうしても現金が必要」という緊急事態であれば、銀行や業者に手形を売却して現金化する手段もあります。これを手形割引と言います。
ただし、手形の額面の額で買取ってもらえるわけではありません。金利や手形の振出人の信用度、受取人の信用度などを総合的に判断して算出された手数料を額面の金額から割り引いて買い取られるのです。割り引かれる値のことを割引率と言います。金利と取立手数料はかかりますが、資金調達のスピードが早いというのがメリットです。
銀行は割引率が低めですが、必要書類が多く、定期預金や不動産などの担保や保証人を求められる場合もあります。現金化までの期間は1週間ほどです。手形割引の専門業者であれば担保や保証人は原則不要で、現金化までの期間が短い傾向にあります。一方で割引率は銀行よりも高くなることが多いです。
時間に余裕があるのであれば割引率が低い銀行を、時間がない場合はスピーディーな現金化ができる専門業者を利用するなど、ご自身の状況に応じてどちらを使うか判断してください。
手形の不安を安心に
手形取引をされた経験がない方はさまざまな不安をお持ちかと思います。ここからは振出人、受取人それぞれの立場から見たメリット・デメリットをご説明します。
「振出人」
メリット
〇資金繰りが有利
前述のとおり、手形を活用すれば支払いを遅らせることができます。手形取引は取引先の同意が必要ですが、「支払日を遅らせて欲しい」と言って断られても、信頼感が高い約束手形での支払いを提案すれば同意が得られるということもあります。
〇利息がつかない
支払いのために金融機関から融資を受ければ必ず利息が発生します。しかし、支払手形であれば利息は一切かかりません。お金を借りてすぐに支払うよりも、手形で支払日を遅らせたほうが損失は少なくなるのです。
デメリット
×手形が不渡りになると倒産の危険性も
手形の期日どおりに支払いができないと手形が不渡りとなります。不渡りを出すと、手形交換所である銀行から「不渡り処分」がくだされ、すべての金融機関に通知されます。さらに、6ヶ月以内に2回不渡りになると銀行取引は停止。事実上の倒産となってしまいます。
×手形のジャンプで信用を失う可能性がある
不渡りを防ぐ方法として、受取人に期日の延長を依頼して変更してもらう「ジャンプ」が挙げられます。しかし、必ずしもジャンプが成功するわけではありません。受取人が首を縦に振らなければ倒産となってしまいます。仮に成功したとしても、借金の延滞と同じことなので、取引先からの信用が失墜することは免れません。
「受取人」
メリット
〇手形割引が可能
手形を所有していれば手形割引で資金調達をすることが可能です。万が一会社の資金繰りが苦しくなった場合、銀行や業者に手形を買い取ってもらうことで、現金を作ることができます。手形の額面通りで売却することはできませんが、それでも当面の運転資金などを工面するには有効な手段です。
〇交渉の際に有利になることもある
現金取引であれば、どうしても代金を支払う側が「お客さま」となり、優位な立場になりがちです。しかし、手形取引を行うことで立場に変化が出ることもあります。振出人は期日までに現金を支払わなければいけない、債務者に近い立場となるため、ビジネスにおいて有利になることも多々あるようです。
デメリット
×資金が回収できない可能性もある
手形が不渡りなってしまうと、当然ながら受取人は支払いを受けることができなくなってしまいます。振出人に取り立てるしかありませんが、そもそも支払い能力がないからこそ不渡りになってしまうので、手形が紙切れになる危険性が高いです。受取人も不渡りのリスクを十分理解して手形取引に応じる必要があります。
×手形割引を断られることも
手形割引は必ずしも成功するとは限りません。上でも述べたとおり、手形には不渡りのリスクが伴います。紙切れとなるような危険な手形を買うような人はいません。振出人の信用度や経営状況によっては手形割引を断られる場合があります。
×キャッシュフローが悪化する場合も
振出人にとっては支払いを遅らせられるというのが手形の大きなメリットですが、逆の立場からするとデメリットとなります。商品やサービスの代金の支払いが遅くなることで、資金管理が難しくなり、キャッシュフローが悪化するリスクも高くなります。
絶対に倒産を免れたい!手形で資金繰りのポイント
前章のとおり、手形取引をしていると資金繰りが悪化するリスクも伴います。万が一の自体に備え、手形を活用する方法を把握しておきましょう。
現金化までに時間がかかるため、早めに手形割引を活用
手形割引で手形を現金化できるのですが、すぐに現金が手に入るとは限りません。特に銀行の場合は申し込んでから1週間以上かかることもあります。また、必要書類を準備するのにも手間と時間がかかるものです。
そもそも、確実に手形が売却できるとも限りませんので、資金繰りが危ないと思ったら早めに手形割引の準備を行い、もし資金調達が間に合わない・できないということであれば、他の手段を考えるようにしましょう。
裏書手形として活用
裏書手形を使うことで、手形自体を支払いに使うことができます。資金繰りが苦しくなったときに裏書手形を使って支払いを行い、ピンチを乗り切ったという会社も少なくありません。
しかし、支払いに使った手形の振出人が不渡りを出してしまったら、代わりに手形代金を支払わなければいけません。借金の連帯保証人になるのと同じことなのです。不渡りになるリスクがあるかどうか、慎重に見極めた上で裏書きをする必要があります。
借り入れを行うことで資金繰りを回復
手形の入金さえあれば資金繰りがどうにかなるというケースでしたら、銀行で借入れをするのも手です。仮に入金が3ヶ月後であれば、その3ヶ月間しのげるだけの資金を借入れで調達すれば良いでしょう。融資の審査では手形についても調べられますので、手形を保有していることで借入れができる可能性も高くなります。
最終手段!間に合わない手形決済の対処法
手形割引をした手形が不渡りになってしまったらどうなるのでしょうか?どう対処すれば良いのでしょうか?ここからは最悪の事態を想定し、手形決済の最終手段について考えてみましょう。
①まず誰に請求がいくのか
手形割引は手形を譲る人(譲渡人)が銀行や業者(譲受人)に手形の金額を譲り、その対価として現金を得る方法です。前章でもご説明しましたが、仮にその手形が不渡りを起こした場合、振出人だけでなく譲渡人にも請求がいくことになります。
②その場合の支払い方法
手形の支払期日に振出人から代金が支払われず決済ができないことを「不渡事由」と言います。第1号、2、0号の3種類があり、それぞれ支払い方法などが異なります。
第1号不渡事由
たとえば資金不足や残高不足など、振出人の都合によって発生した不渡りのことを指します。この場合は振出人と譲渡人に対して代金の請求が行え、支払いができない場合は財産の差し押さえもできる手形訴訟を起こすことも可能です。
第2号不渡事由
振出人に支払い能力があるにも関わらず、自らの意思で支払わずに不渡りとなるケースです。受取人による契約不履行や、手形が盗難や偽造されたりした場合など、振出人自身に問題がない問題によって、支払いが拒絶されることがあります。この場合は、不渡りとなる前に銀行で申し立てを行い、支払いを免れることが可能です。
第0号不渡事由
金額が書かれていない、振出人の署名押印がない、支払日の記載がないなど、手形に何らかの不備があるケースが該当します。第0号不渡事由の場合は不渡り届けが出されませんので、取引停止などにはなりません。
③対処方法
手形が不渡りになってしまった、あるいはなりそうになったときには、すぐに振出人と連絡を取って、支払いをどうするか相談しましょう。売掛金を失うだけでなく、手形割引や裏書譲渡をしていた場合はご自身が支払いをしなければならないことになります。
経営セーフティ共済や取引信用保険に入っていれば、不渡りが出たときに被った損失に対して保証が受けられます。また、法人保険に入っているのであれば、解約することで解約戻金を受け取ることもできます。
万が一に備えて、こうした共済や保険にも入っておきましょう。
④手形が不渡りになる前にファクタリングで資金調達
手形割引と似たような資金調達の方法としてファクタリングというものがあります。売上金を得られる権利を譲渡して、現金を前倒しして得られるという点では手形割引と同じです。
手形割引は銀行や業者と融資契約を結ぶため、手形が不渡りになれば返済義務が生じます。ファクタリングは売掛債権を売却しますので、売掛先が倒産しても保証する義務はありません。
ファクタリングを行う際は審査がありますが、売掛先の信用力が重視されます。手数料は5~30%で、手形割引の手数料相場と比べるとやや高めとなります。
前述のとおり、売掛先が倒産しても利用者に支払い義務が生じないのが大きなメリットですが、ファクタリング会社にとっては回収リスクが大きくなりますので、売掛債務者の経営状況が芳しくなければ利用できない可能性もあります。
赤字企業再生支援センターにご連絡ください
経営状況を改善するために経営コンサルを利用されている方もいらっしゃるかと思いますが、不渡りという最悪の事態が近づいている状況だと、もはやコンサルタントを頼っても手遅れであることが多いです。
目の前の問題をなんとかしなければいけない、すぐに現金を用意しなければいけない。そんなときには赤字企業再生支援センターにご相談ください。3,000万円まで出資可能。今発生しているお金の問題を工面し、経営者さまとともに、二人三脚で会社再生を目指します。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。