2021年01月18日
とあるお客さまからのご相談:
都内で「パーソナルトレーニングジム」を経営しています。
売上は順調に伸びていましたが、新型コロナウイルスの影響で、売上が大幅に減少してしまいました。
世間では「ソーシャルディスタンス」や「非接触」が提唱されるなか、どうしても接触の機会が避けられない事業形態ということもあり、売上回復のメドが立っていません。
少し前に「大きな設備投資」をしたばかりということもあり、このままでは間違いなく「債務超過」します。ほとんど、ギリギリの状態です。
そのため、実のところ「M&Aによる事業譲渡」も視野に入れています。
ただし「債務超過寸前の当社をM&Aする会社があるのか」という点については、大いに疑問です。
M&Aについて、くわしくないため、押さえるべきポイントがあれば、アドバイスが欲しいです。よろしくお願いします。
(パーソナルジムの経営者さま より)
こちらは、パーソナルトレーニングジムを経営している経営者さんから届いた問い合わせである。端的にまとめると以下の通りだ。
パーソナルトレーニングジムを運営しているが、コロナの影響で、大幅な売上減に見舞われた。売上が回復する見込みがないため、出口戦略として「事業譲渡(M&A)」することを考えている。
そのため、事業譲渡する際に「押さえるべきポイント」があれば知っておきたいというものだ。
第5回目のシリーズ連載企画では「出口戦略としてのM&A(事業譲渡)」を特集する。
出口戦略の一つとしてM&A(事業譲渡)を検討しており、「M&Aを成功させるポイント」を知っておきたいという方は、ぜひ読んでほしい。
- 出口戦略として「M&A」は使える手なのか?が知りたい
- M&A(事業譲渡)を成功させるために押さえるべきポイントが知りたい
現在のM&A市場の動向について
ニッセイ基礎研究所は、興味深いリサーチを行っている。同研究所によると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、2020年4月~6月期におけるM&A取引は急激に減少したが、その後は急速に回復。
その結果、2020年9月におけるM&A取引額は5183億米ドルに達したのそうだ。
この水準は、コロナ以前にピークを記録した2019年11月(4779億米ドル)を404億米ドルも上回るすさまじい記録だ。
M&Aがグローバル市場で「大きな盛り上がり」を見せているというわけである。
日本も同様で、業績が低迷していたり、売上回復のメドが立たない経営者を中心に、出口戦略としてM&Aによる事業譲渡を検討する経営者が増えている。
M&A Onlineによれば、2020年1~9月における、日本企業がかかわったM&Aの取引額は「21.4兆円」で前年同期比で56%も増加している。
これは1980年以来、歴代2位の驚異的な数字だそうだ。
政府も、2020年度の補正予算において、中小企業に対して100億円規模の「事業承継支援」を行う考えを示している。
M&A市場においては、史上例を見ないほどの「追い風が吹いている」といえるだろう。
あなたがM&Aに興味があるならば、またとないチャンスが到来しているのだ。
M&A仲介は誰がどんなことをやってくれるの?
M&A市場の活況具合については、ご理解いただけたのではないかと思う。
その一方で、事業譲渡は「どのようにして行うのか?」という疑問が湧いた方もいるのではないだろうか。
もちろん、自社のホームページ上で「うちをM&Aしてください」と宣伝するわけではない。
M&Aというのは、M&Aを成功に導く仲介事業者が存在していて、そういった事業者たちが「事業を譲渡したい人」と「事業を購入したい人」をマッチングさせているのである。
一般的には「M&A仲介」などといわれるサービスだ。
具体的なサービス内容としては、以下の通りである。
【M&A仲介サービスの内容】
マッチング
M&A希望者のなかから「事業を譲渡したい人」と「事業を購入したい人」を引き合わせる
進行管理
M&A成立までの進行管理を行うことで、売り主・買い主の「満足度」を上げる
売り主へのサポート:魅力的な情報をデータベースに掲載
売り主側の「事業情報」をつぶさに収集し、データベースに掲載することで、買い手側にアプローチする
買い主へのサポート:魅力的な案件の紹介
買い主の条件に合った魅力的な案件を複数紹介することで、希望通りのM&Aが実現できるようにサポートする
なお、M&A仲介に関する「国家資格」はなく、参入障壁が非常に低いため、実にさまざまな業者が参入しているのが実情である。専門事業者のほか、銀行や会計事務所、FA(ファイナンシャルアドバイザー)に至るまで幅広い。
業者によって、取り扱う「M&Aの規模」もまちまちだ。
中小企業や零細企業を中心とした「スモールM&A」を専門とする事業者がある一方、大型案件に特化してサービスを行う事業者もある。
誠実でまっとうな仲介業者もいれば、スキルもモラルも何もない「悪徳業者」に至るまで玉石混交なので、業者選定には注意が必要なのだ。
依頼先が最も重要!
というわけで、M&Aを成功させたいならば「自社に合ったM&A仲介事業者を選ぶこと」が、とても重要なのだ。
しかし、「どこのM&A会社に依頼するのがベストなのかわからない」というのが、正直なところだと思う。
そこで、「M&A仲介事業者を選ぶ際のチェックポイント」をピックアップしてみた。
事業を譲渡するかどうかは、まだ決めていないが、少しでもM&Aに興味がある方は、こちらの項目を参考にしてほしい。
【優良M&A仲介事業者を見極める5つのチェックポイント】
- 事業規模に合った相談を受けているか?
あなたの事業規模に合った実績があるM&A仲介事業者が望ましい。「コスト」や「対応力」の面で、満足できる可能性が高いからだ。中小企業であれば、中小規模のM&A実績があるか、確認してみよう
- 担当者は、自社の業種における「M&A実績」があるか?
担当するスタッフの「実績」もチェックしよう。 とりわけ「業種」の確認を行ってほしい。たとえば、あなたのビジネスの業種が飲食店であれば、飲食店におけるマッチング実績があるか確認しよう。 その業種ならではビジネスを理解している担当者だと、スムーズにマッチングまで導いてくれる可能性が高い
- 専任期間が長すぎないか?(1年~3年以上)
M&A仲介業者によっては「専任期間」というものがある。その期間中は、ほかのM&A事業者に相談できないという独自のシステムがM&A業界にはあるのだ。 ただし、専任とはいっても、担当者が情熱をもって対応してくれるかどうかは別の話だ。担当者は「情熱をもって対応してくれるか」に加えて、「専任期間が長すぎないか」チェックしておこう
- 「公認会計士」や「弁護士」等の資格は参考程度に!
M&A仲介業者のなかには「公認会計士」などの資格をアピールする業者も少なくない。しかし、公認会計士の基本業務はあくまで「会計」であり、M&Aにくわしいかどうかは全く別の話だ。資格よりも、仲介実績をチェックした方がいいだろう
- 報酬体系はどうなっているのか?
報酬体系は、M&A事業者によって大きく異なる。 完全成功報酬型で、M&Aが成立するまでは報酬が発生しない場合もあるし、着手金や中間報酬が発生する場合もある。「どちらが得」とは一概にいえない。事前に報酬体系を確認し「自社が損をしないか」を見極めよう
M&Aの成功率を高めるために~経営者としての心がまえ3ヵ条
前項を通じて、優良M&A事業者を選定するチェックポイントについて、ご理解いただけたのではないだろうか。
続いて「事業譲渡(M&A)を成功させるための心がまえ3ヵ条」についても解説したい。
ポイントは以下の3点だ。
【事業譲渡(M&A)を成功させるための心がまえ3ヵ条】
1つずつ、解説していきたい。
赤字になっても不正はするな
赤字や債務超過からの出口戦略としてM&Aを検討する経営者さんのなかには「粉飾決算」まがいのことをして、自社の財務状況をよりよく見せようとする方がいる。少しでも高値で早く事業譲渡したいからだ。
しかし、ほとんどの場合「あっさりと見抜かれてしまう」と肝に銘じておこう。
そもそも不正な行為であり、絶対に避けたいNG行為だ。
貸借対照表や損益計算書は、正しいものを提出しよう。数字の管理に自信がない場合は、税理士や会計士に依頼して、きちっと作成してもらうのがおすすめだ。
目先の利益ばかりを追求しない「真摯な態度」を
多くの経営者にとって、M&Aは「一生のうちに一度あるかないか」の大きな決断である。そのため、どんな経営者も「経営者やビジネスは信頼できるか」について、注意深くチェックする。
それは、会計上「黒字か赤字か」といった単純なことだけでなく「自社が成長するうえでプラスになるM&Aなのか?」といったより壮大な視点だ。
多くの場合、従業員も引き継ぐことになるため「人間性のよい会社なのか」といったことが見られているのである。
M&Aの中盤では、トップ同士の「顔合わせ会談」が実施される。
あなたが売り主になるならば、そこで好印象を残し、次のステップにつなげるためにも、目先の利益ばかりを追求せず「お世話になります」という真摯な姿勢で臨むのがよいだろう。
一人の人間として、今後の人生の決定と覚悟をもつ
M&Aの成立を目前にして、売り主側の気持ちが急変し「M&Aが破談になる」といったケースがある。
それはなぜかといえば「会社への未練・執着が断ち切れない」からだ。
創業当初から育て上げてきた会社を譲渡するのは、並大抵のことではない。自社への愛着が大きいオーナー社長に、より顕著に見られるパターンだ。
しかし「一緒に働いてきた従業員の今後」や「経営者さん自身の今後の人生」を考えた場合、「何がベストなのか」よくよく考えてほしい。
総合的に判断したうえで「M&Aを行うべきだ」という判断に至ったならば、腹をくくって決断するべきだ。
赤字になったときの出口戦略は「M&A」だけじゃない
赤字や債務超過などが原因で、会社の状況が厳しい場合、出口戦略の筆頭にM&Aが挙がる。しかし、M&A以外にも、経営者の方にとって望ましい戦略がほかにもある。
その一つが「事業再生ファンド」の活用だ。
事業再生ファンドとは、倒産寸前の会社を立て直すための「資金提供」と「経営コンサルティング」を行う事業者のことである。
資金とコンサルの両面からサポートすることで、事業再生を実現するのが、事業再生ファンドの目的である。
通常、事業再生ファンドは以下3つの観点で企業をチェックする。
- 事業の再生は可能か
- 投資の資金が確保できるか
- 今まで以上にビジネスを大きくできるか
これらの条件を満たすと見なされた場合、負債の買取や経営コンサルティングが実行される。
赤字企業再生支援センターの場合、上記3つの要素だけをドライに判断するのではなく「経営者の意気込み」や「人間性」なども加味して、総合的に事業再生をお手伝いさせていただいている。
「M&Aするかどうか」に加えて「事業再生の可能性も模索したい」という場合には、当社までご相談いただきたい。
パーソナルトレーニングジムのM&A破談とまさかの結末
冒頭では、パーソナルトレーニングジムを経営する経営者さんからの「M&Aに関する相談」を取り上げた。
こちらの相談、実は一度「破談」になったのだが、最終的には当社に「無償の事業譲渡」に近い状況になるといったユニークな顛末を迎えたのだ。
事の流れはこうだ。
冒頭で紹介した通り、ジムの経営者さんから「事業譲渡に興味がある」という問い合わせをいただいた。
しかし、ジムの経営者さんは「会社をより高く売却したい」というお気持ちが強かったため、「価格交渉」が難航したのである。当社としては「適正な価格での取引」を望んだため、話がかみ合わなかったのだ。
また、先方からいただいた財務状況の書類に目を通しているなかで、数字を大きく見せようとする会計処理にも気づいた次第である。
結局、ジムの経営者さんからも「別の会社に相談する」との連絡を受け、M&Aの話はいったん「完全に白紙」になってしまったのだ。
しかしその後「ある転機」が訪れる。
それはパーソナルトレーニングジムの「トレーナーさんからの電話」だった。
トレーナーさんの話を聞いてみると、最初に連絡をくださった経営者さんは「雇われ社長」であり、「実質的なジムの運営・経営」は、トレーナーさんだというのである。
トレーナーさんは、今までのやり取りもすべて見ており、当社の姿勢を高く評価してくださったようで「M&Aはしなくていいです。赤字企業再生支援センターさんとビジネスをします」と直々におっしゃってくださった。
このようなケースはたいへん珍しいが、M&Aというものは「会社同士の取引」ではなく「経営者同士の取引」といっていいのではないだろうか。
どちらかといえば、「経営者の姿勢」がみられているのだ。
「M&Aを成功させるための心がまえ」でも触れたが、改めて取り上げる。
M&Aに臨む際には、以下の3点を念頭に置いてほしいと思う。そうすれば、多かれ少なかれ、希望通りの結果が得られるはずだ。
【事業譲渡(M&A)を成功させるための心がまえ3ヵ条】
【次回のコラムの予告】
いかがでしたか。
シリーズ連載企画の第5回目は「M&A」に焦点を当てました。
M&Aに興味がある場合、まずは「信頼のおける事業者」を見極めることが重要です。また、M&Aを成功させるには「経営者としての覚悟」や「相手に対する真摯な態度」がとても重要です。
さて、シリーズ連載企画も、次の第6回目でいよいよ『最終回』となります。
最終回のテーマは「事業再生」です。
先行き不透明なこれからの時代、経営者1人で、ビジネスのかじ取りを行うのには「大きな困難」が付きまといます。そのため、ビジネスを根底から応援してくれる「パートナーの存在」が必要不可欠になることが予想されます。
あなたには「心の底から信頼できるビジネスパートナー」はいますか?
「赤字体質を抜本的に変えたい」「優良黒字企業に転換するために何をするべきか知りたい」という方は、第6回目の記事に目を通してみてください。
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