2019年07月24日
資金ショートに陥る原因には共通点がある
今までうまくいっていたのに、あるとき会社が赤字経営となり資金ショートに陥ってしまう……こうした失敗するのには必ず原因があります。成功する理由は人それぞれで、「こうすればうまくいきます」とはなかなか言えないものですが、失敗する原因には共通点があるものです。
今回は資金ショートに陥る原因を、事業運営や経営者の思考・性格、お金の使い方など、さまざまな視点から見ていきましょう。また、資金ショートをさせないためのポイントも解説します。
経営者の方にとっては耳が痛い内容もあるかもしれませんが、今一度ご自身を振り返るきっかけにしていただければ幸いです。
1代で莫大な資産を築き上げたカリスマ社長、2代目の豪遊で散財の末、倒産の危機に!
業態:建設業
社員数:100人
財務状況:2018年に赤字に転じ、資金ショート寸前に。
40歳のA氏は建設会社を創業し、一代で従業員100人の規模にまで会社を拡大させたカリスマ経営者の2世。先代は莫大な資産を築き上げたが5年前に勇退し、それまで副社長を勤めていたA氏に事業継承した。
しかし、A氏は会社を引き継いだとたん、先代が作り上げた資産を食い潰すようになったのだ。本人は会社の金を使ってクラブで女遊びをし、愛人にマンションを買い与え、高級外車を乗り回す、高級時計を身につけるなど、豪遊三昧。嫁も専業主婦でブランド物を買い漁り、散財し放題。見栄で長男は私立小学校、次男は私立幼稚園に通わせ、教育費も莫大なものになっていた。
A氏はキャッシュフローを把握しておらず、会社を引き継いでから5年後の2018年に赤字に転落し、資金ショートの危機を迎える。
会社の売上を確保するための仕組みや顧客ルートなどは先代がしっかり作っているので、正しく運営をすれば事業再生は可能であった。しかし、A氏は銀行の事業再生指示に耳を傾けることはなく、事業計画書の内容も成功する見込みがない新規事業を立ち上げばかり。
そこで副社長が業を煮やして赤字企業再生支援センターに相談したのだった。
事業運営の傾向
上記のストーリーは事業が失敗する典型的な実例です。まずは事業運営の面から資金ショートに陥る理由を考えてみましょう。
資金管理上の問題点
資金管理が適正にできていないことが一番大きな要因です。当然、上記のような散財を繰り返していればいずれ資産はなくなります。また、設備投資をしたり、仕入れをしたりして赤字に陥るケースも少なくありません。
入ってくるお金よりも出ていくお金のほうが多ければ資金ショートに陥るのは当然のことです。他にも、売掛金の入金タイミングが遅い、思ったよりも売上が伸びないといったことも赤字経営の原因となり得ます。経営者がキャッシュフローについて十分把握しておらず、いきあたりばったりの経営をすれば、会社はすぐに赤字になってしまうのです。
また、融資を受けた銀行の事業再生指示を聞かず、計画が漠然としているような状態で経営を続けた結果、資金ショートに陥るケースが非常に多く見受けられます。
事業の見通しが明確でない
事業を新しくはじめる際には「いくら投資すれば良いのか?」そして「いくら収益をあげられるか」という見通しが非常に重要です。もちろん、計画通りにいくとは限りませんが、事前にシミュレーションしておけば失敗のリスクを大きく軽減することができます。
実績がないビジネスへの投資、特にやたらと新規事業部や新部隊を作って、人・金・物をつぎ込んでいる会社は資金ショートに陥りやすい傾向があります。
また、商工会議所やライオンズクラブなどに加盟している中小企業の経営者が、経営者仲間の言葉を鵜呑みにしたり、ビジネス戦略をそのまま真似したりして新規事業を立ち上げ、失敗に終わってしまうというケースも少なくありません。
運営上の問題点
会社の運営がずさんだったり、なあなあになっていたりすることも失敗する大きな要因です。経営者が「面倒だから」と書類の内容に目を通さずやたら承認印を押している、印鑑を事務員に託しているケースは非常に危険。たとえば契約書に重大な見落としがあったために足元をすくわれるケースもあるのです。
また、こうした経営者の姿勢は会社全体に悪影響を及ぼします。現場の従業員もずさんな仕事をするようになり、品質が低下したり、重大なミスが発生したり、法令に違反したりといった問題が発生した結果、会社の経営が立ち行かなくなってしまうケースは多々あるものです。
経営者の思考・性格上の特徴
経営者は会社の鏡。社長の考え方や行動などが会社の経営状態に色濃く反映されるものです。次は失敗を引き起こしやすい経営者の思考・性格について考えていきましょう。
本人に実力がない
経営には向き不向きがあります。冒頭のストーリーに出てきたA氏もその典型例です。親がカリスマ社長だったからといって、本人もそうであるとは限りません。また、経営者に向いていたとしても経験が浅くて実力が不十分な状態だと、成功するはずものも失敗します。
親の会社を引き継いだはいいものの、実力が伴わず倒産させてしまうという例は枚挙に暇がありません。
見栄っ張り
人間には必ず「見栄を張りたい」という欲求があります。しかし、過度な見栄っ張りは経営者には向いていません。実力がないのにさもあるようにビッグマウスを叩いたり、赤字経営なのにお金があるように見栄を張っていたりすると、そのうち会社は潰れるでしょう。
特に前項で挙げた実力がない人は、それを隠そうとして見栄を張る傾向があります。
他責思考
「他責」とは人のせいにすること。失敗を自分ごととは思わず、「うまくいかなかったのは先代のせい」「うちの従業員は使えない」「売上が伸びないのは不景気のせい」というように、何でも人や環境のせいにしてしまうのは簡単です。しかし、他責思考に陥ると失敗した本当の原因がわからなくなってしまいます。
また、自分で責任をとることをしないので、その場しのぎの、いきあたりばったりな経営になりがちです。
自分さえ良ければいい
会社には従業員や取引先など多くの人が関わっていて、さらにその先には家族がいます。経営に失敗してしまえば、その人たちが露頭に迷うことになりかねなません。それを考えると、会社を倒産させることは決して許されないのです。
しかし、経営に失敗する社長はそうした視点が抜けている傾向があります。「自分さえ贅沢できればいい」「自分さえ助かればいい」そんな考えで好き放題した結果、赤字が膨らんで取り返しがつかないことになってしまうケースも多いのです。
ゴルフが好き
ゴルフを趣味とされている方でも立派に会社を経営されている方はたくさんいらっしゃいますので、休日にゴルフを楽しむことを批判するつもりはありません。経営者ともなれば、多かれ少なかれ接待でゴルフをする機会もあるでしょう。
しかし、倒産した会社の経営者は過度なゴルフ好きという傾向があります。従業員が働いているときもゴルフ三昧。ゴルフに熱中するがあまり、経営が疎かになってしまって失敗することもあり得るのです。ギャンブルやお酒など、他の趣味でも同じことが言えます。
人のことを見下す
経営者には人格も求められます。従業員を見下して上から目線でものを言ったり、話を聞かなかったりというような姿勢を取り続けていると、やがて会社に人材がいなくなるでしょう。特に優秀な社員ほど経営者の態度に敏感なものです。顧客を心の中で見下していると、それが知らずしらずのうちに態度や商品やサービスの品質に表れ、その結果売上が落ちるでしょう。
最終的には人と人です。傲慢な態度は必ず経営不振を招きます。
公の場に出たがる
経営者をしていると商工会議所やライオンズクラブ、あるいは業界団体の役職の就任を打診されることもあるでしょう。それ自体は悪いことではありません。社会貢献ができる、会社の宣伝になる、顧客からの信頼が得られる、情報交換ができるなどのメリットもあります。
ただし、会社外の活動に熱心になりすぎるあまり経営が疎かになっているようであれば問題です。
昔の栄光を未だに引きずる
特にベテランの方は要注意。日々、市況や社会情勢が変わっている、新しいテクノロジーや価値観が台頭している世の中で、過去の栄光にすがるのは何の意味もありません。
「バブルの頃は儲かった」「創業当時はうまくいったから」「今までこのやり方で成功してきたから」というトップがいる会社は、やがて世の中の変化に対応できなくなり、衰退を迎えることでしょう。
お金の使い道の特徴
経営に失敗した会社の経営者を見てみると、お金の使い道にも共有した傾向がありました。一度、ご自身のお金の使い方もチェックしてみましょう。
買い物編
倒産した会社の社長さんには、高級外車を乗り回し、高級時計や高級ブランド品を身にまとっているような方が多くいらっしゃいました。ある程度外見を気にして身なりを整えることは重要ですが、経営に失敗した社長さんはそれが行き過ぎてしまう傾向があるのです。
別荘やクルーザー、ヘリコプターを所有している社長さんもいらっしゃいました。会社が儲かっていないからこそ、実力が不足しているからこそ、そうして虚栄心を満たしたいのかもしれません。また、一度上がった生活レベルをもとに戻せず、赤字になっても贅沢をし続けていた社長さんも少なくありません。分不相応な散財や、金銭感覚の麻痺が倒産を招くのです。
生活編
銀座や六本木のクラブに通い詰めて毎晩大金を散財し、愛人を囲い、プレゼントをすぐに買い与えてしまう。女遊びで身を滅ぼした社長さんも数多く見てきました。
会社のお金と自分のお金を混同してしまう社長さんも少なくありません。クラブなどの飲食代は「接待費」として会社の経費で落とせるケースもあります。もちろん、取引先を接待するのであれば問題はないのですが、自分が楽しむために会社のお金を使ってしまうのは大問題です。特にプライベート口座の決済率が年間90%以下となると要注意です。
家族編
親なら子どもに質が高い教育を受けさせたいと思うのは当然のことでしょう。しかし、経営が傾いている社長は、奥さんが見栄のために子どもを幼稚園から有名な私立に通わせるケースが多いです。
他にもブランド物をたくさん買い漁る、誰もがうらやましがる高級住宅街に家を建てるなど、家族も贅沢三昧。実は見栄っ張りな奥さんが原因で会社が倒産するということも少なくないのです。
会社のお金と自己資産はしっかり区別することが重要
以上、資金ショートに陥る会社の経営者の傾向について解説しました。誤解していただきたくないのは、上記にあてはまる人が必ずしも失敗するとは限らないということです。あくまで、資金ショートした会社の社長さんには上記のような傾向があったということにほかなりません。
冒頭の実例もそうなのですが、会社の資産を個人のお金と混同して好き勝手使うことが、赤字経営を招き、資金ショートに陥り、ひいては倒産につながります。会社を担保にして融資の審査を通して、カードローンで個人的な借金をしていたような経営者もいました。
「会社は自分のもの」と勘違いするのが大きな落とし穴。まずは会社のお金と自己資産をしっかり区別し、生活するためあるいは趣味のための出費は自分のお金で賄うことが重要です。
事業の調子が良いときこそ、将来的なキャッシュフローを把握する
会社の経営は順調で、赤字に陥っていなくても倒産するリスクはあります。その代表例は黒字倒産。損益計算書などの書類上では利益があがっているのに、実際は現金が手元に残っていないがために倒産してしまうケースです。不正確な会計処理や、入金されるはずの売掛金が入って来ないといった原因で黒字倒産が起こります。
会社の調子が良いと、ついつい油断しがち。「勝って兜の緒を締めよ」ではありませんが、経営がうまくいっているときほど、キャッシュフローをしっかりと把握しましょう。今一度キャッシュフロー計画書を作り、将来売上としてどれくらいのお金が入って、固定費や投資費用としてどれくらいのお金が出ていくかを予測してみてください。
売り上げが低迷する時期があることを知る
事業はいつもうまくいくとは限りません。先ほども解説したように、過去の栄光に囚われすぎていては、いずれ衰退を迎えます。売上が低迷したときに備えてあらかじめ対策をしておきましょう。
自己資本を投入する用意をし、いざというときの資金調達の方法なども確認しておいてください。すでに銀行などの金融機関で事業者ローンを使って借入れをされているのであれば、返済のことも考慮しながら計画を立ててみましょう。
事業が失敗する理由から学べることがある
事業が失敗するリスクは0ではありません。経営者なら常に失敗することを考慮して行動しましょう。今回の記事で耳が痛い想いをされた、不愉快に思われた方もいらっしゃるかと思います。しかし、会社が倒産するのには必ず理由があり、それが経営者の思考や行動に起因するケースも少なくないのです。
事業が失敗した方の実例から学べることは多くあります。それを知って考え方を見直し、行動を変えていくことで、リスクを軽減できるでしょう。今回の記事をきっかけに、今一度ご自身のこと、会社のことを考え直してみていただければ幸いです。
今現在、赤字で苦しんでいる、資金ショートで悩んでいるという経営者の方は、赤字企業再生支援センターにご相談ください。事業再生の方法をいっしょに考えていきましょう。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。