2024年04月25日
もう社員を減給するしかない、一時的に給料を下げて社員にも我慢してもらうしかない……業績が悪化してこのように追い詰められている経営者様もいらっしゃるかもしれません。社員の給料を下げるのは社長にとっては苦渋の決断であるはずです。 しかし、業績が悪化したからといって社員の給料を下げることはできるのでしょうか?この記事では社員を減給する際のルールや進め方、給料を下げる際の注意点についてご紹介します。
会社側から一方的に社員の給料を下げてはいけない
結論からいうと会社が社員の給料を一方的に下げることはできません。減給するためには就業規則を変更する必要がありますが、労働契約法第9条には「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と定められています。給料を下げるという行為は当然のことながら社員にとっては不利益にあたるため、会社側が一方的に減給するのは認められないのです。
しかし、労働契約法第8条には「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と記載されており、社員と会社側で合意が形成されていれば減給することは可能です。
違法にならない減給のパターン
基本的に会社が社員の給料を下げることはできず、一方的に減給するのは違法行為にあたる可能性が高いです。仮に業績悪化によって給料を下げるとなると、以下のいずれかの方法をとることになります。
- 人事評価での降格に基づいた減給
- 懲戒処分としての減給
- 従業員からの合意を得た減給
- 就業規則の変更による減給
- 労働協約の変更による減給
- 賞与の減額
- インセンティブの減額
それぞれ詳しく見ていきましょう。
上表の上から2つ「人事評価での降格に基づいた減給」「懲戒処分としての減給」は、企業側の都合によるコスト削減を目的とした減給のご紹介の為、従業員の評価や勤務態度の関わってくる当該項目は説明を割愛します。
従業員からの合意を得る
従業員からの合意があれば、給料を下げることが可能です。ただし、前述のとおり減給は社員にとって大きな不利益であるため、減給幅や期間などの内容を明確に説明しないと、合意が無効となることがあります。
「業績が悪化しているから給料を月●●万円給料を下げたい」「売上が上がる●月まで減給に応じてほしい」と話し合いをして、社員が納得すれば減給することはできます。
就業規則の変更
就業規則を変更することでも給料の額を変えることはできます。しかし、原則として就業規則は会社が一方的に作成する性質のものなので、労働契約法第9条によって労働者に不利益になるような変更は認められていません。
なお、労働契約法第10条には例外が定められており、変更後の就業規則が周知されていて、労働者が受ける不利益の内容や程度、就業規則の変更が合理的なものである場合に限り、就業規則を変更して減給することが認められます。
労働協約の変更
労働協約とは使用者と労働者の代表である労働組合が合意した労使関係の取り決めのことを指します。労働協約が締結されていれば、それが各従業員にも適用されます。
労働組合がある会社の場合は経営者と労働組合が話し合って労働協約が成立すれば、社員の減給をすることが可能です。
賞与の減額
賞与は一般的な基本給や手当とは性質が異なるものです。基本給や手当は労働に対する対価として支払われますが、賞与は会社の業績や社員が出した成果に応じて支払われます。そのため、賞与の額は法律では決まっておらず、支払うか支払わないかも各企業の判断に委ねられます。基本給や手当を下げるのではなく、賞与の減額というかたちで減給を行うことも可能です。
ただし、就業規則に賞与をどのように規定しているかによって適法か違法かが変わってくるので注意が必要です。たとえば就業規則に「業績によっては支給しない」というように記載されている場合は、賞与を下げても問題ありません。一方で、「賞与を●ヶ月分支給する」というように具体的に賞与の額が記載されている場合は法律違反になる場合があります。
インセンティブの減額
インセンティブが給料に導入されている場合、社員への毎月の給料の支払額は増減することがあります。しかし、それはあくまで当該社員の成果や成績によるものでなければなりません。インセンティブであっても業績悪化を理由に一方的に減額するのは社員の不利益につながります。
一方で、インセンティブに関しても社員の合意を得る、あるいは就業規則の変更や労働協約によって減額することは可能です。
人材コストの盲点「福利厚生」
人件費や人材にかかるコストというと給料に目が行きがちですが、社員に提供している福利厚生も大きなコストといえます。福利厚生には社会保険や雇用保険などの法定福利厚生と、それ以外で企業が任意に提供する法定外福利厚生があり、後者の内容については各企業の裁量に任せられます。
しかし、今まで提供していた福利厚生を削ってしまうと、やはり社員にとっては不利益にあたる可能性があります。給料と同様に社員の同意を得る、就業規則を変更する、労働協約にもとづいて減額するなどの対応が必要です。
ただ、福利厚生を充実させすぎたあまり会社の業績が悪くなる、資金ショートを引き起こしてしまうといった事例も少なくありません。
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それぞれの減給の進め方
以上で社員の給料を下げる方法についてご紹介してきました。ここからはそれぞれの減給の進め方について見ていきましょう。
従業員からの合意による減給の場合
減給を進める場合は社員に対して十分な説明を尽くしましょう。会社の状況や見通しを包み隠さず打ち明けて、減給の必要性があることを理論的に説得する必要があります。また、社員が減給に応じるかどうかを検討する期間を設けることと、同意書を作成しておくことも重要なポイントです。
①給料を下げる理由を十分に説明する
ーポイント:必要な説明事項
★必要性・会社側の事情
★減給後の給料
★今後の増額の可能性
②十分な検討期間を設ける
ーポイント:期間
★少なくとも3~5か月の猶予を儲けましょう
③同意書を作成する
ーポイント:証拠
★同意が得られた場合には必ず作成しましょう
就業規則の変更による減給の場合
まずは減給幅や期間、対象者など減給の方針について決めます。その後、社員や労働組合と話し合い、減給に関して同意を得るようにしましょう。社員と個別に合意を得る場合は同意書、労働組合に合意を得るなら労働協定を締結します。
①減給の具体的な方針を決定する
②労働者との面談または労働組合との協議を行う
③同意書または労働協約の締結する
ーポイント:正式な同意
★労働協約は、書面により作成、両当事者が署名または記名押印することが必要(労働組合法第14条)
労働協約の変更による減給の場合
やはりこちらについても減給の具体的な内容について決めておきましょう。特に就業規則の変更となると合理性が求められます。方針が決まったら社員の代表者に対して必ず意見聴取を行ってください。これは法律で義務付けられています。減給に対して合意が得られたら労働基準監督署へ就業規則変更届を提出し、変更後の就業規則を労働者へ周知します。
①就業規則の変更内容を決定する
ーポイント:事前調査
★合理性がが重要ですので、弁護士と相談しながら進めましょう
②労働者代表者への意見聴取
ーポイント:条件
★法律で義務付けられています
★書面で回答を受け取りましょう
③労働基準監督署へ就業規則変更届を提出する
④労働者への周知
ーポイント:状態
★労働者がいつでも確認できる状態にしておきましょう
給料を下げる際の注意点
減給は社長にとっては苦渋の決断ですが、社員にとっても今後の生活を左右する一大事であることはいうまでもありません。それだけに対応方法を間違えると不信感を持たれ、トラブルや離職にも発展しかねません。減給を進める際には細心の注意を払いましょう。特に以下の2つの点を意識して進めてみてください。
①関連する法律の把握
②同意の強要をしない
関連する法律の把握
繰り返しになりますが、給料を下げる行為は社員に不利益をもたらします。一方的に減給した場合は違法行為にあたる可能性があります。
たとえば会社の一存だけで就業規則を変更した場合、労働契約法第9条違反に該当するおそれがあります。労働組合や労働者の過半数の代表に対する意見聴取を行わず就業規則を変更した場合は労働基準法第90条違反です。給料を下げたいからといって残業代をカットした場合は、やはり労働基準法第37条違反となります。
減給を進める際には、労働契約法や労働基準法などの内容を今一度把握し、これらに抵触しないよう意識しましょう。
同意の強要をしない
減給をする際には労働組合や社員の同意が必要となります。この際に同意を強要しないよう注意しましょう。たとえば合意しないと解雇をするよう示唆したり、合意するまで拘束したりといった方法でむりやり合意を形成しても、その減給は無効となってしまいます。
減給は社員の自由意志による合意があってはじめて成立します。そのためにも会社の状況や減給の内容を誠心誠意説明し、納得してもらえるよう心がけましょう。
そもそも業績不振・経営難による減給は正しい選択か
経営難に陥った場合、固定費の削減やコストカットを目的に人件費を一時的に削減するというのも選択肢のひとつではあります。
しかし、会社経営において「人」「人材」はもっとも重要な財産といえます。利益が上がるのも社員がいてこそです。安易に社員の給料を減らすことで優秀な社員が離職すれば大きな損失になり得ます。その社員を気に入って契約してくれた上顧客がいる場合、社員だけでなく顧客も離れていってしまうことになるでしょう。
経営難を脱出するために社員の給料を下げる場合は慎重に検討し、労働組合や対象社員と十分話し合いをしましょう。
減給を考えるほど逼迫された経営者様へ
人件費の削減を検討せざるを得ないほど追い詰められている場合は、かなり経営状況が逼迫している状況です。減給をして一時的にしのいだとしても、根本的な解決にはなかなかつながりません。
もし経営難で追い詰められている場合は東京事業再生コンサルティングセンターにご相談ください。パートナーとして、優良黒字企業への回復までともに歩みます。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。