2019年10月04日
銀行融資の返済条件を変更するリスケ。成功すれば返済額や返済方法などの条件の変更や支払いの猶予をしてもらうことができます。近年、銀行がリスケに応じてくれることも多くなりましたが、申し込めば必ず成功するというものではありません。たとえ「リスケをしてほしい」と申し出ても断られて失敗する可能性もあるのです。
なぜリスケが失敗してしまうのでしょうか?その原因と対処方法について考えていきましょう。
リスケに失敗する4つの原因と対策
リスケに失敗するにはそれ相応の理由があります。そもそもリスケとは金融機関に対して「返済額を減らしてください!」「利息の支払いを待ってください!」というお願いすることです。金融機関側にとっては、大切なお金を貸しているのですから、少しでも不備があったら応じられないのは当然のことと言えます。
リスケを申し出ても断られる典型的な4つの原因と、その対策についてまとめました。まずはこれらのことをしっかりと意識して、リスケに臨みましょう。
必要書類を用意していない
リスケを申し込む際には金融機関から「経営改善計画書」「資金繰り表」「試算表」の提出を求められます。必要書類が準備できていなければ、返済計画が明確になっていなければ、当然金融機関は応じようがありません。経営を改善するつもりがない、リスケを申し出る意思がないと思われ、マイナスイメージを持たれてしまう危険性すらあります。
まずは銀行が求める書類をしっかりと用意しましょう。担当者に「何がいつまでに必要か?」を確認してください。上記の他にも提出物がありましたら、速やかに準備して提出することが重要です。
経営再建計画に現実味がない
必要書類を提出したにも関わらずリスケが失敗した場合は、内容に問題がある可能性が考えられます。特に多いのが、経営改善計画書に実現可能性が低い内容を記載してしまうケースです。
現実的な経営再建計画を根拠として、条件変更を行いさえすれば将来的に融資を返済できるという見通しを金融機関に提示して、はじめてリスケが成功します。
たとえば、お客が増える見込みもないのに売上が数年後には倍増する、儲かる見込みがない新規事業を立ち上げて収益が出せるというような内容を盛り込んでも説得力がありません。
リスケを成功させたいがために経営改善計画書の内容を盛るのはかえって逆効果となります。過去の実績なども鑑みて実現可能性が高い再建・返済計画を作成すること、売上や利益の見込みは過度に引き上げすぎないことがポイントです。
別の銀行のリスケをしない
リスケをする際には「衡平性の原則」というものがあることを念頭に置いてください。複数の金融機関から借入れていてリスケをする場合は、すべて同じ条件で変更しなければいけないというルールです。A銀行の借入はリスケして、B銀行に先に返済するということは認められません。A銀行をリスケする場合は、B銀行も同じ条件でリスケしなければいけないということです。A銀行のみ返済額を減らしてもらう、元金返済のみにしてもらうということもできません。
そもそも、リスケは経営再建の最終手段と言えます。いったんすべての金融機関に返済を猶予してもらい、経営を建て直すチャンスをもらうことが重要。リスケをすると決めたら、まずは返済よりも会社の経営再建を優先しましょう。それが結果的に返済の近道となるのです。
融資から半年以内にリスケを申し込む
融資からそれほど月日が経っていないにも関わらずリスケを申し込んでも、失敗する確率が高いです。お金を貸す側の立場で考えてみましょう。友達にお金を貸した次の日に「やっぱり返せない」「返済額を減らしてくれ」なんて言われたらどう思いますか?「返せるあてもないのに」「騙された」と思うのではないでしょうか?
銀行融資も同じ。借入をした直後に返済しようともせずにリスケを申し込んだら信用は失墜。詐欺を疑われる危険性すらあります。できれば融資から半年は返済を続け、その上で会社の経営状況の変化など事情を説明してリスケを申し込みましょう。
他責思考で失敗する
以上、リスケに失敗する原因と対策についてご説明しました。これに加えて「考え方」も成否に大きく関わります。
リスケを申し込む際には経営が悪化した理由を金融機関に説明しなければいけませんが、そのときにどのような説明をしますか?「景気が悪かったから」「人手不足だから」「従業員が損失を出したから」みたいな他責の理由が思い浮かんだら要注意です。
確かに経営がうまくいかなくなった背景には景気の変動や従業員の問題など、外的要因があるのも事実かもしれません。しかし、環境や他者に責任を押し付けてばかりいては銀行からの印象が悪くなってしまい、リスケが失敗する危険性が高くなります。
ただ「景気が悪かったから」と言い訳しても、金融機関側は「景気が悪くなる前にコスト削減を行う、資金確保を行うなどの対策はできたはず」と考えるでしょう。「計画書通りにやらない・やれない」「実行力がない」と思われ、経営者の資質が問われかねません。
環境や人のせいばかりにしていては、リスケの後に行わなければいけない事業再生もうまくいきません。まずは、客観的に「なぜ会社の経営が頓挫してしまったのか?」「自分に何が足りなかったのか?」を考えましょう。
そもそも銀行はリスケを快く思っていない
銀行の立場からすると、「本当はリスケに応じたくない」というのが本音です。それには2つの理由が挙げられます。
まず挙げられるのが銀行の収益が減ってしまうということ。金融機関では債権に対して「貸倒引当金」という費用勘定を計上しています。融資先ごとに「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」、「破綻先」というような格付けを行い、それに応じて貸倒引当金の金額が決まります。
正常先であれば貸倒引当金の割合は1%以下となりますが、破綻懸念先ともなると70%以上もの金額の貸倒引当金を計上しなければいけないケースもあり、銀行の収益が減ってしまいます。仮にリスケの申込みがあって、断らなければいけないほど貸付先の財務状況が悪化していた場合は「破綻懸念先」となり、貸倒引当金を積み増ししなければいけないのです。リスケは銀行側にとって大きな損失になるリスクを孕んでいるのです。
それに加えて、銀行員個人の事情も関わってきます。銀行員は新規顧客の開拓や新規融資契約、長期貸付の件数や金額などが行内での評価基準となります。リスケはその対象には含まれません。
書類作成や決済などに追われ、上司からは責任を問われる。リスケは銀行員にとっては手間の割に評価にはつながらないという、全くうまみがない仕事なのです。
銀行全体に損失を与えるし、銀行員個人の余分な仕事も増える。リスケは金融機関から嫌がられるという認識を持ちましょう。銀行は貸倒れを防ぐために、やむを得ずリスケに応じているというのが実情と言えます。
【超重要】円滑化法の余韻終了。倒産急増か?!
そもそもリスケをなぜ銀行が受け入れ続けてきたのか?それには理由があります。
リーマンショックで中小企業を中心に倒産が相次いだ2009年に「中小企業金融円滑化法」という法律が施行されました。金融機関は中小企業から融資の返済条件の変更を申し込まれた場合は、それに応じなければならず、金融庁に「貸付条件の変更実施状況」を報告しなければいけないという旨が定められていました。
この法律は期間の定めがある時限立法であり、2013年に効力を失いましたが、その後も金融庁は任意で報告を求め、その余韻が続いていました。
しかし、この超低金利時代で銀行の収益は激減。利息だけでは利益が得られないため、手数料収入や海外展開などの活路を見出してきましたが、それも限界。メガバンクであってもリストラを行うなど、厳しい状況が続いています。加えて、2019年3月に金融庁は貸付条件の変更実施状況の報告を休止。実質円滑化法が完全に終了したことになります。
法律の縛りがなくなり、自身の経営状況も悪化していることから、銀行がリスケに応じてくれなくなってきている傾向があります。労働力不足やオリンピック特需の終了も相まって、今後倒産する会社が急増すると予測している専門家も少なくありません。
リスケ後、最悪のシナリオ
リスケができたとしても、その後に事業再生ができなければ遅かれ早かれ倒産という結果となります。リスケ期間中に経営改善計画書どおりに収益の拡大やリストラなどが行えず、売上や利益の進捗状況が計画を下回った(一般的には8割以下)場合は不良債権として扱われます。
経営改善計画書どおりに行動している、何らかの理由で計画を達成できなかった場合は、リスケの期間延長も認められるでしょう。しかし、経営改善計画書を作っただけで、全く行動もしていない、業績も改善できていないというのであれば、銀行からはしごを外されてします。
不良債権として扱われて、回収に入られることになるでしょう。保証協会付き融資の場合は、保証協会から督促が入ります。会社は倒産し、担保に入れておいた資産も失うこととなります。
最悪の状況にならないためにも、リスケを行う際には経営改善計画をしっかり建て、猶予を得たらしっかりと実践しましょう。
万端の準備を整えてリスケをしよう
金融機関にとってもリスクが高く、社会情勢も変わっている状況のなかで、リスケは認められにくくなってきています。しかし、銀行側にとっては貸倒れが最も避けるべき事態であり、それを回避できる見込みがあればリスケという手段を選択します。
しっかりと準備をしていればリスケが認められる可能性も高くなりますので、以下のようなポイントを意識しながら申し込みましょう。
長期的な視点で経営改善計画書・資金繰り表を作成する
経営改善計画書や資金繰り表が非常に重要なのは前述のとおりです。ポイントはなるべく長期スパンで再生計画と返済計画を立てること。
5年後、10年後に「どう経営が改善されているか?」「売上や利益がいくらになるのか?」という展望を明確にしましょう。
嘘をつかない
「リスケを認めてほしい」という一心からついつい嘘をついてしまったり、騙すつもりはなくても良く見せようとして脚色してしまったりする気持ちもわかりますが、金融機関の担当者に嘘をつくのは厳禁。銀行は大切なお金を貸しているわけですから、誠意をもって対応しましょう。経営改善計画書や資金繰り表などの書類の内容も然りです。
信用保証協会に相談する
信用保証協会とは、金融機関との間に入って中小企業や小規模事業者の信用を保証してくれる協会です。通常ではリスケが認められないケースでも、信用保証協会が入ることで認められる場合があります。経営改善のサポートや相談窓口業務も行っています。
リスケを成功させるための秘訣が知りたい方は「資金繰りを改善、銀行のリスケを成功させる交渉方法」もご覧ください。より詳しく、具体的なポイントを解説しています。
根本的な解決を図るのが第一
リスケはあくまで延命措置です。仮に申し込んで返済条件の変更が成功しても、肝心の経営改善ができなければリスケは失敗と言えます。銀行からリスケが認められたということは、経営改善ができる望みがあるということです。銀行融資の返済猶予ができたら、事業再生に全力を注ぎましょう。
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リスケをするかどうか迷っている、勝算のある事業計画はあるが資金不足で倒産しそう、当面資金はあるけど勝算のある計画がない……そんなお悩みがありましたら、まずは私たちにご相談ください。
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本コラムの監修者
事業再生コンサルタント
清水 麻衣子
元銀行マンで、多くの顧客の相手をしてきた実績と数々の中小企業を見てきた知見をもって、東京事業再生コンサルティングのコンサルタントへ。
通常のコンサル会社におけるコンサルタントとは大きく違い、豊富な知識と現場のリアルを把握している、企業を想った本質的なコンサルが魅力。