2026年08月21日

「工事は途切れていないのに、なぜか決算は赤字」。
建設業では、こうした状態に悩む経営者が少なくありません。
原因は資材高騰や人手不足だけでなく、下請構造や見積もりの仕組みそのものに潜んでいることもあります。
本記事では、建設業が赤字に陥りやすい理由から、放置した場合のリスク、建設業許可への影響、そして今日から着手できる経営改善策までを解説します。
この記事のポイント
赤字は放置するほど、使える選択肢が狭まる
経営事項審査(経審)のY点低下や、金融機関からの融資審査への影響など、赤字を放置するほど会社が取れる手段は限られていきます。
気づいた時点で早めに動くことが重要です。
赤字でも建設業許可がすぐに取り消されるわけではない
一般建設業許可は、赤字決算というだけで即座に不許可になるわけではありません。
ただし、特定建設業許可は要件が厳しく、注意が必要です。
本当に必要なのは「黒字化」という土俵に立つこと
工事別の原価管理や固定費の見直しなど、今日から着手できる改善策があります。
まずは自社の数字を正確に把握することが第一歩です。
そもそも「赤字」とはどういう状態?
「赤字」とは、1年間の事業活動を通じて、収益よりも費用が上回り、損益計算書上で「当期純損失」が発生している状態を指します。
工事は動いていても、材料費・外注費・人件費・経費などの合計が売上を超えてしまえば、決算書は赤字として計上されます。
ここで混同されやすいのが「赤字」と「債務超過」です。
赤字は単年度の損益の話であり、赤字が出てもすぐに会社の存続が危ぶまれるわけではありません。
一方、債務超過は貸借対照表上で負債が資産を上回り、自己資本がマイナスになっている状態を指します。
赤字が何期も積み重なると債務超過に近づいていくため、両者は無関係ではありませんが、まずは自社が今どちらの段階にあるのかを正しく把握することが対策の出発点になります。
なぜ建設業は赤字に陥りやすいのか
建設業は他業種と比べても、構造的に利益を確保しにくい業界だといわれます。
その背景には、業界特有の取引慣行や価格決定の仕組みが関係しています。
ここでは代表的な3つの要因を見ていきます。
下請け・孫請けほど利益が薄くなるため
建設業界には、元請け・一次下請け・二次下請け・孫請けという重層下請構造が根強く残っています。
発注が元請けから下請け、孫請けへと流れるたびに、間に入る会社の取り分が引かれるため、末端に近い会社ほど受け取れる金額は少なくなっていきます。
加えて、下位に位置する会社ほど価格交渉力が弱く、提示された金額をそのまま受け入れざるを得ない場面も少なくありません。
この構造の中で日々の受注を続けているだけで、利益率が少しずつ削られていくのです。
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資材費や人件費の上がっても見積もりに反映できないため
近年、木材や鋼材、住宅設備機器などの資材価格や、職人の人件費は上昇傾向が続いています。
本来であれば、こうしたコスト上昇分は見積もりや請負金額に反映すべきものです。
しかし、契約後に資材価格が上がった場合や、発注者・元請けとの力関係から値上げを言い出しにくい場合、上昇分を自社が被る形で工事を進めざるを得ないことがあります。
結果として「仕事は動いているのに、手元に利益が残らない」という状態に陥りやすくなります。
入金より先に支払いが発生するため
建設業の工事は、材料費や外注費、人件費を先に支払い、工事代金は完成後や締め日後にまとめて入金されるのが一般的です。
この入金と支払いのタイムラグにより、帳簿上は利益が出ていても、手元の資金が先に不足してしまうことがあります。
特に受注が増えるほど先払いの負担も大きくなるため、忙しさに比例して資金繰りが苦しくなるという、一見矛盾した状況が起こりやすいのも建設業の特徴です。
赤字なのに工事を受注してしまう構造
ここまでは業界構造や外部環境が生む赤字の原因を見てきましたが、赤字と分かっていながら工事を受注してしまう会社も少なくありません。
それには、経営者の判断や社内の管理体制に根ざした事情があります。
固定費・人件費を維持するため仕事を切らせない
職人や従業員を雇用している以上、仕事がない期間でも人件費や固定費は発生し続けます。
「仕事を止めれば固定費だけが出ていく」という状況を避けるために、採算が合わない工事だと分かっていても受注してしまうケースは珍しくありません。
目先の手元資金を確保するための判断が、結果的に赤字を積み重ねる原因になってしまいます。
元請けとの力関係で条件の悪い工事も断りづらい
下請けという立場上、元請けからの発注を断ると次回以降の仕事が回ってこなくなるのではないか、という不安から、採算の悪い条件でも受けてしまう会社は多く見られます。
特に特定の元請けへの依存度が高い会社ほど、この傾向は強くなります。
関係性を優先した結果、利益の出ない工事ばかりが積み重なっていくのです。
どんぶり勘定で「赤字工事」だと気づいていない
会社全体の損益は把握していても、工事ごとの原価や利益を個別に管理できていない会社は少なくありません。
いわゆる「どんぶり勘定」の状態です。
この場合、どの工事が黒字でどの工事が赤字なのかが見えないまま受注を続けてしまい、気づいたときには赤字工事が会社全体の利益を押し下げていた、という事態に陥りやすくなります。
赤字を放置するリスク
赤字は放っておいても自然に解消するものではありません。
むしろ、時間が経つほど会社が使える選択肢は狭まっていきます。
特に建設業では、赤字が経営の別の側面にも波及しやすい点に注意が必要です。
公共工事の入札で不利になる
公共工事の入札に参加するには、経営事項審査(経審)を受ける必要があります。
この経審には、財務状況を評価する「Y点」という項目があり、赤字が続くと自己資本比率や収益性の指標が悪化し、Y点が下がってしまいます。
結果として、経審全体の総合評定値(P点)も下がり、入札できる公共工事のランクが下がる、あるいは希望する規模の工事に入札できなくなる可能性があります。
公共工事を経営の柱の一つに据えている会社にとって、これは経営基盤そのものに関わる問題です。
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金融機関からの融資を受けにくくなる
赤字決算が続くと、金融機関は融資の審査において慎重な姿勢を取るようになります。
新規融資が受けにくくなるだけでなく、既存の借入の借り換えや追加融資、あるいは条件変更(リスケジュール)の相談においても、交渉のハードルが上がります。
資金繰りが苦しいときほど資金調達の選択肢を必要としているにもかかわらず、赤字が原因でその選択肢自体が狭まってしまうという、悪循環に陥りやすい点が大きなリスクです。
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赤字でも建設業許可は取れるのか
赤字が続くと、多くの経営者が気になるのが「このまま建設業許可を維持できるのか」という点です。
結論から言うと、許可の種類によって扱いが異なります。
赤字決算=即不許可ではない
一般建設業許可の財産的基礎の要件は、「自己資本が500万円以上であること」または「500万円以上の資金調達能力があることを、預金残高証明書や融資証明書などで証明できること」のいずれかを満たせば足ります。
つまり、決算が赤字であること自体は、直接の不許可理由にはなりません。
自己資本要件を満たせなくても、資金調達能力を証明できれば許可の取得・更新は可能です。
ただし、赤字が続けば資金調達能力を示す証明そのものが取りにくくなっていくため、油断はできません。
特定建設業許可は更新できなくなることがある
一方、下請けに一定額以上の工事を発注する際に必要となる特定建設業許可は、要件が格段に厳しくなります。
欠損の額が資本金の20%を超えないこと、流動比率が75%以上であること、自己資本が4,000万円以上であることなど、複数の財務要件をすべて満たす必要があります。
赤字や債務超過が続き、これらの基準を1つでも満たせなくなると、更新自体ができなくなる可能性があります。
特定建設業許可を維持している会社にとって、赤字の放置は許可の存続に直結する問題だといえます。
| 一般建設業許可 | 特定建設業許可 | |
|---|---|---|
| 自己資本の目安 | 500万円以上(証明できれば可) | 4,000万円以上 |
| 財務の健全性 | 自分のタイミング・意思で動ける | 複数の財務基準を満たす必要あり |
| 赤字が続いた場合 | 証明できれば維持可能 | 更新できなくなることも |
赤字体質の建設業がまず行うべきこと
許可の維持だけを目的にするのではなく、根本にある赤字体質そのものに向き合うことが、会社を立て直す上で欠かせません。
ここでは、比較的早期に着手できる3つの取り組みを紹介します。
工事別の原価管理を仕組み化する
会社全体の損益だけでなく、工事ごとに材料費・外注費・労務費・経費を分けて記録し、案件単位で利益が出ているかを確認できる仕組みを整えることが第一歩です。
どんぶり勘定のままでは、赤字を生んでいる工事のパターンや原因を特定できません。
工事別に原価を可視化できれば、どのような条件の工事を避けるべきか、どこで利益が削られているのかが具体的に見えてきます。
お金を生まない固定費を見直す
売上に関係なく毎月発生する固定費の中には、稼働の少ない車両・設備のリース契約や、実態の薄い顧問契約など、見直しの余地があるものが少なくありません。
一つひとつは小さな金額に見えても、積み重なると経営を圧迫します。
第三者の視点を入れて棚卸しすることで、社内だけでは気づきにくい無駄が見えてくることもあります。
資金繰り表を作成し、資金の流れを可視化する
今後の入金予定と支払い予定を時系列で整理した「資金繰り表」を作成し、1か月先だけでなく3か月先、6か月先まで見通せるようにしておくことも重要です。
資金不足が起こるタイミングを事前に把握できれば、融資の相談や支払条件の交渉、受注量の調整といった対応を早めに打つことができます。
数字を毎月追う習慣そのものが、赤字体質からの脱却に向けた土台になります。
まずは経営改善を行うことが重要
原価管理や固定費の見直しといった対策は、いずれも会社を黒字化に近づけるための取り組みです。
逆に言えば、赤字体質のまま許可だけを維持できても、それは根本的な解決にはなりません。
融資を受けるにも、公共工事の入札で有利な評価を得るにも、まずは黒字化という土俵に立てていることが前提になります。
裏を返せば、黒字化できていない状態では、どれだけ良い経営戦略を描いても、その土俵にすら立てないのが実情です。
東京事業再生コンサルティングセンターにご相談ください
東京事業再生コンサルティングセンターは、建設業を中心に、赤字企業の事業再生に取り組んできました。
原価管理や固定費の整理、資金繰りの見直しといった経営改善から、財務体質の立て直しまで、実行を前提に伴走しています。
赤字は放置するほど選択肢が狭まっていきます。
「まだ何とかなるうち」に、一人で抱え込まず、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
赤字が何年続くと危険と判断されますか?
明確な年数の基準があるわけではありませんが、2〜3期連続で赤字が続くと、金融機関からの評価や経審のY点への影響が大きくなっていきます。
単年度の赤字であっても、原因を放置すれば翌期以降も同じ状態が続く可能性が高いため、早い段階で原因を特定し、対策を講じることが重要です。
赤字決算のままでも金融機関に相談してよいのでしょうか?
問題ありません。
むしろ、資金繰りが厳しくなってから慌てて相談するよりも、赤字の原因や今後の見通しを整理した上で早めに相談する方が、金融機関側も前向きに対応しやすくなります。
リスケジュールなどの選択肢も、早い段階であるほど選びやすくなります。
個人事業主(一人親方)でも同じ対策は有効ですか?
はい、有効です。
工事別の原価管理や資金繰り表の作成は、法人・個人事業主を問わず取り組める対策です。
特に一人親方の場合、経理業務まで手が回らず、どんぶり勘定になりやすい傾向があるため、こうした可視化の取り組みは経営改善の第一歩として特に効果的です。
まとめ
建設業の赤字は、重層下請構造や価格転嫁の難しさ、入金と支払いのタイムラグといった業界特有の要因に加え、固定費維持やどんぶり勘定といった社内側の事情も重なって生まれます。
放置すれば経審のY点低下や融資審査への影響など、使える選択肢は徐々に狭まっていきますが、原価管理や固定費の見直し、資金繰りの可視化といった対策から着実に黒字化へ近づくことは可能です。
自社だけで抱え込まず、専門家に相談することも、立て直しへの近道です。